
ご覧ください。この雄姿。ハウルの城もものかは、これぞ下町、これぞ居酒屋、これぞ[ゆうちゃん]の戦闘体制であります。赤提灯というわが日本的イルミネーションは、タンタン タヌキの信楽焼きやホッピー、ビール、懐かしの専売公社の看板どもを傘下に、東京・門前仲町は辰巳新道の路地裏に、燦然と輝いておりました。
この夜、天気晴朗なれど浪高し。
「よっ きたね」
「はい。きましたよ」
先輩K氏と二人、ひさしぶりのゆうちゃんで、まずは当たり前のご挨拶。ところが先客のほぼ出来上がった先生がきつい一発をワタクシたちに。
「1本でも日本酒とはこれいかに」
「3本でも日本酒というが如し」
すかさず返したのはゆうちゃんのお父さん。店名のゆうちゃんは、ご主人の愛息の名前ですから、本当にお父さんなのです。
間髪をおかずに二の矢が飛んできました。
「たまに飲んでもしょっちゅう(焼酎)とは」
戦闘モードになりきれなかったワタクシは沈黙。翌日会社で「そのこころ」を解いたのは我らがS次長です。
「野原で飲んでもビ(ー)ルというが如し」
むむっ。さすがグルマン飲兵衛次長。明るくても即戦闘体制ですね。お主もやるな。
そこで私も「平屋で飲んでもビ(ー)ルというが如し」
まねですね。
さて、先生の隙を付いて馬刺しを注文すると、三の矢が
「馬刺しとウサギの肉とどっちがおいしいと思う」
またもむむむむむっ。
「歌にあるでしょ。ウサギ追いし(おいしい) 彼の山」
懐かしいですね。疲れますが。
「追いしは、本当に『おいしい』という歌詞だと思っていた」と若い方。
誰かはいいません。
言葉遊びの満艦飾でワタクシたちの目をくらませた先生ご夫妻は、路地の向かいのカラオケスナックへ転戦していきました。
「ホタテをバター焼きにしてくれる」
先生たちの後に来たカップルのうちの男性が再三頼みましたが「これは生でなくちゃ」とゆうちゃんのお父さんが一蹴。
ワタクシたちに出された大きなホタテは身は生。内臓だけちょっぴり湯がいてありましたが、そのほのかな甘さ、おいしさときたら言葉を失いました。
この夜のホタテは600円。
「なるべく500円以下に抑えたい」と泣きたくなるようなお言葉もあって、めったに味わえない幸せをひたすら噛み締めた門仲の夜でありました。


