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栄養の関所 [2008年05月11日(日) ]
 昭和29年、愚生は小学校に入りました。校門の脇の満開の桜の下を、貧しい中を無理して買ってもらったランドセルを背負った少年Y=愚生のことです=の、世間への航海が始まったその年、三業地としてにぎわっていた東京は四谷荒木町に、「栄養の関所 三吉」が設けられました。



 「関所といえばみんなの注目を集めるでしょ」と、ご主人。
 へい。大いに、大いに集めます。

 荒木町は、20年来の、夜のわがフィールド。といっても行きつけは「よつや こくている」と「坊主バー」の2軒しかありません。「関所」は以前から大変気になっておりましたが、値段もメニューも表にはなく、中の様子をうかがい知ることもできず、入るのを躊躇しておりました。行くようになったのはごく最近のことです。この夜はかつてのご同輩と2人。
 「お客さん、前にもいらっしゃいましたね」
 「3回目です」。
 
 短髪のご主人と、やさしそうな奥さまの二人が、静かに迎えてくれます。
 「焼き鳥とおしんこください。焼き鳥はタレと塩半分づつ」
半世紀を経た職人技は、ワレワレの注文を、一分の無駄もない動きでこなしていきます。

 焼き上がりはごらんのとおり。火は中までしっかり通っていながら、表面がかたくない。軟らかなのです。おいしさは、どこにも逃げてない、中にふっくらと閉じ込められているかのようで、しかもタレは53年、継ぎ足してきた秘伝の味。
 「タレがおいしいとお客さんがおっしゃってくれます」
 塩ももちろんおいしく、これで1050円。ビールは大瓶です。
 「自分のうちだからできるのでしょう」


 金曜日といえ連休明け。ほかに客はなく話に花が咲きました。というよりも、昔のことどもを、いろいろとおしえていたあだきました。

 「炭は備長炭だとすぐには火がつかないからお客さんが来てすぐたさなきゃならないうちのような店には向きません。火力が強くてもちはいいのですが」
 「お客様が来すぎて戸に鍵をかけて営業したこともあります。炭も昔は前の駐車場に50俵積んでいました」
 
 「うちの前の道までが、花街で、そこから一歩出るとわずか4、5メートルでも<遠出>といって別料金がかかるのです」
 「出張料金というわけですか。三業地なら見番もあったのでしょうね」と愚生。
 「神社のある公園が、見番があったところです」とご主人。
 三味線の音や歌と踊りの練習の声がしていたかつての粋筋の要の場。その面影は町の表の三味線屋や下駄屋などから思い浮かべるしかありませんが、懐かしい東京弁のご主人の言葉使いが、その思いを助けてくれます。

 「浅草で生まれてここで育ちました」
 火は「し」、千住は「せんじ」とおっしゃいます。今は亡き木場生まれの母方の祖母や大伯父たちの啖呵やイントネーションを思い出して、「もっと話を」との思いが増しました。
 関所はやはり簡単には通リ抜けられません。

 追記 
 ナスとキューリのおしんこ、やや浅漬けで絶品でした。ぬかの選定、管理などすべてが万全ということでしょう。

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