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「仕手相場」(パンローリング社&徳間書店)
が代表作の経済作家でした。
偏った作品から脱皮してみたい。
新しい何かを掴みたいと、このコーナーで試させていただきます。
               こずかた治

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街ゆかば  17[2008年09月14日(日) ]
眠い!、修が布団に横たわったのは一時間も経ってなかった。どこかの骨董市で買ってきたゼンマイ仕掛けの時計の針が午前六時を指していた。このようなモノを買ってくるのも修の癖だった。久子が布団を修の傍らに敷き、傍らでうとうとしかけた。いつものことだった。躯からアルコールの匂いが立ち上っていた。体温が熱く感じられた。久子が顔をくしゃくしゃにし修の胸に顔を寄せた。短いが幸せの時間だった。
 昨夜、というより明け方まで付き合わされた仔犬はクンクンと泣きづけていた。寒いの? 玄関に厚めのボール箱を置き、人間の臭いがする毛布も暖かいでしょ! たっぷり敷きつめてあるのに、どうして泣くのよ、寒くないでしょ! キャイン! キャン! ボスの声が悲鳴に変わった。修も起きだし玄関を覗く。ボスが寒そうに小さな躰をぶるぶる震わせてこちらを向く。鼻先に指を当てると、びっしょり濡れていた。
 風邪を引かせたのかしらという久子の後ろから、鼻の先が濡れているのなら心配ない。気配に気づいた修が、寝ようと背中を抱えていった。二人の姿が消えると、上に上げろ、二人の傍に置けとクンクン、キャンキャン泣き叫ぶ。間もなく12月だ。早朝のこの時間は冷え込みが強い。
「やはり寒いのよ」
 久子が毛布を二重にして躰に掛けてやる。一時、鳴き声は静まる。だが、二人の姿が見えなくなり、人間の体温が薄れかかると、悲しげにクゥン、クゥンと鳴き声に尾をつけて呼ぶ。
「上に上げる?」
 修も気づいていた。座敷に上げたが、今度はじっとしていない。人間が眠っている時間なのだが落ちつきなく部屋中歩き回り、二人の布団に潜り込み、嗅ぎ周り、ときどきおシッコをかける。
 眠れないからと玄関に戻せば、また大騒ぎである。
 ようやく静かになったのは、夜がすっかり明け、近所の豆腐屋のラッパが朝の六時を告げながら通りを過ぎる。

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