虎ノ門から神谷町に向かう途中に、
マフラーが落ちていた。
舗道の真ん中に落ちているので、
歩行者は皆気づいては踏まないようにと、
よけて通り過ぎるものの誰一人拾おうとしない。
マフラーも嫌われたものだ。
拾って驚いた。
ブランド物だ。(ドルチェ)
交番に届けようか考えたが、
持ち主が落したと気づいてどうするだろうかを考えた。
今来た道を戻ってくるに違いないと思い、
近くのガードレールに結び付けておくことにした。
数時間後にはここを帰るので確かめることも出来る。
出来るだけ目立つだろうと思う場所に結びつけた。
しばらく歩いていると、
また落し物があった。
手袋である。
スエードの、決して安くないもの…
拾い上げてみるとやはりブランド物だ。(レノマ)
これも近くのビルまわりの手すりの目立つところにのせた。
…と、手すりの手前に植え込みがあり、
その下に財布らしきものが落ちて(?)いる。
拾い上げると、
これもダンヒルの財布だ。
失礼して中身を拝見…カードがすぐ目に付いたが、
札らしきものはない。
割引のチケットかクーポン券らしきものとレシート数枚…
詳しく見る必要もなかった。
小銭入れは多少膨らんでいる。
このまま近くの交番に持って行った方がいい。
手袋と並べておくわけにはいくまい…
…と、そのとき、
「すみません」
背中に声をかけられふりむくと、
財布と手袋の落し主だという。
見るからに実直そうな男性でもあり、
嘘はないと思ったが、
手袋は片手ですよというと、
「これです」
と一方の手袋をポケットから出して見せた。
間違いが無かった。
「で、財布には何が入っているか、
念のため、確認させてもらっていいですか?」
すると、○○のカードと、
○○のポイントカード、
500円硬貨と百円玉2枚、10円玉2枚、
100万の小切手が入っているという。
「・・・・ひゃ、ひゃく万?」
「何処に?」
…と渡すと、札入れの奥から取り出した。
さっきグルメのクーポン券か何かと思ったものが小切手だった。
間違いなく100万円の金額が捺されていた。
「気づきませんでした。
では間違いありませんね。どうぞお持ち下さい」
すると彼は、
「お礼といっては足りませんが、
コーヒーでもご一緒にどうですか」
という。
「いいですが…」
「さっき、そこのターリーでコーヒーを飲んだおつりがあるんです。
まだ二人分はありますから、ご一緒に如何ですか?」
この誘いを受けることにした。
確かに500円硬貨と百円玉の話をしていたので、
コーヒー代はあるはずだから…
丁度コーヒーでも飲もうかと思っていたこともあり、
おごってもらわなくても、自分で出せばいい。
「え、またターリーでいいんですか?」
「わたしは日に5〜6杯は飲むんですよ。
コーヒーの美味い不味いは分からないので、
お宅様が嫌でなければ、ここでどうですか?」
「勿論、ここで結構です。この店は初めてですが、
他ではターリーはよく入るんです」
「それはよかった。では…」
そんな会話を交わしながら、
二人座りの丸いテーブルで、
コーヒーのSを飲みながら会話が弾んだ。
そして、「何故あんな所で財布と手袋を落したのか」
「マフラーをしていないのに気づいて、
このバッグに入れたかなと、ふたを開けて、
あっちこっちを探したがない。そのときに、
バッグのうしろポケットに入れておいた財布と
手袋を落したらしい」というのだ。
「マフラー?」
「えゝ、女房に買ってもらったもので…」
「それ、ドルチェのマフラーじゃないでしょうね」
「えッ、どうしてそれを?」
「さっき舗道の真ん中に落ちていたのを、
ガードレールに巻き付けて来ましたから」
この話で、
「じゃあわたしは早速行ってみますので、
先に失礼します」
かれは半分も飲んでいないカップを手に立ち上がった。
「後に何かお礼をさせて頂きますので、
お名刺などお持ちでしたら」
と言われたが、マフラーを先に探しに行ってくださいと
マフラーを巻きつけた大体の場所を教えた。
「一緒に行ってやるのも億劫だし、
コーヒーも残っている。このまま座っていよう」
彼は何度もお辞儀をくり返して立ち去った。
おかしなことがあるものだ。
事実は小説より奇きなり…を地でいっている感じじゃないか、
などと思いながら、フッと思ったことがある。
あの財布を拾って、
100万円の小切手に気づいていたとしたら、
即座に交番に行こうとしたろうか…
少なからず、届けようかどうかを考えたのではなかろうか。
小切手は裏書が必要なのだろうか…
等々、考えているうちに、コーヒーも不味くなってきた。
出よう…
それから用を済ませて帰宅に着いた。
…と、前方からさっきの男性がこっちに歩いてくる。
首にはちゃ〜んとマフラーが巻かれていた。
何とはなしに満ち足りた表情をしていると思えた。
すれ違いに挨拶を・・・と思ったが、
彼は僕に気づかないようであった。
…というよりも覚えていなかったのかもしれない。
ただの行き交う人々の二人として夫々に行き違った。
これでいいのだ。
そんなことを考えながら、
すき家に入って、サービス中の牛丼と納豆、青ネギを食べた。
彼は小切手を現金化しなければ現金は数百円しかないはずだ。
しかし、あの満足感に浸ったような顔つきは、
小切手の顔じゃない…現金の顔だ…こんなことを思いながら、
霞ヶ関から溜池を通り、家へ帰ってきた。
昨日の不思議な体験である。
マフラーが落ちていた。
舗道の真ん中に落ちているので、
歩行者は皆気づいては踏まないようにと、
よけて通り過ぎるものの誰一人拾おうとしない。
マフラーも嫌われたものだ。
拾って驚いた。
ブランド物だ。(ドルチェ)
交番に届けようか考えたが、
持ち主が落したと気づいてどうするだろうかを考えた。
今来た道を戻ってくるに違いないと思い、
近くのガードレールに結び付けておくことにした。
数時間後にはここを帰るので確かめることも出来る。
出来るだけ目立つだろうと思う場所に結びつけた。
しばらく歩いていると、
また落し物があった。
手袋である。
スエードの、決して安くないもの…
拾い上げてみるとやはりブランド物だ。(レノマ)
これも近くのビルまわりの手すりの目立つところにのせた。
…と、手すりの手前に植え込みがあり、
その下に財布らしきものが落ちて(?)いる。
拾い上げると、
これもダンヒルの財布だ。
失礼して中身を拝見…カードがすぐ目に付いたが、
札らしきものはない。
割引のチケットかクーポン券らしきものとレシート数枚…
詳しく見る必要もなかった。
小銭入れは多少膨らんでいる。
このまま近くの交番に持って行った方がいい。
手袋と並べておくわけにはいくまい…
…と、そのとき、
「すみません」
背中に声をかけられふりむくと、
財布と手袋の落し主だという。
見るからに実直そうな男性でもあり、
嘘はないと思ったが、
手袋は片手ですよというと、
「これです」
と一方の手袋をポケットから出して見せた。
間違いが無かった。
「で、財布には何が入っているか、
念のため、確認させてもらっていいですか?」
すると、○○のカードと、
○○のポイントカード、
500円硬貨と百円玉2枚、10円玉2枚、
100万の小切手が入っているという。
「・・・・ひゃ、ひゃく万?」
「何処に?」
…と渡すと、札入れの奥から取り出した。
さっきグルメのクーポン券か何かと思ったものが小切手だった。
間違いなく100万円の金額が捺されていた。
「気づきませんでした。
では間違いありませんね。どうぞお持ち下さい」
すると彼は、
「お礼といっては足りませんが、
コーヒーでもご一緒にどうですか」
という。
「いいですが…」
「さっき、そこのターリーでコーヒーを飲んだおつりがあるんです。
まだ二人分はありますから、ご一緒に如何ですか?」
この誘いを受けることにした。
確かに500円硬貨と百円玉の話をしていたので、
コーヒー代はあるはずだから…
丁度コーヒーでも飲もうかと思っていたこともあり、
おごってもらわなくても、自分で出せばいい。
「え、またターリーでいいんですか?」
「わたしは日に5〜6杯は飲むんですよ。
コーヒーの美味い不味いは分からないので、
お宅様が嫌でなければ、ここでどうですか?」
「勿論、ここで結構です。この店は初めてですが、
他ではターリーはよく入るんです」
「それはよかった。では…」
そんな会話を交わしながら、
二人座りの丸いテーブルで、
コーヒーのSを飲みながら会話が弾んだ。
そして、「何故あんな所で財布と手袋を落したのか」
「マフラーをしていないのに気づいて、
このバッグに入れたかなと、ふたを開けて、
あっちこっちを探したがない。そのときに、
バッグのうしろポケットに入れておいた財布と
手袋を落したらしい」というのだ。
「マフラー?」
「えゝ、女房に買ってもらったもので…」
「それ、ドルチェのマフラーじゃないでしょうね」
「えッ、どうしてそれを?」
「さっき舗道の真ん中に落ちていたのを、
ガードレールに巻き付けて来ましたから」
この話で、
「じゃあわたしは早速行ってみますので、
先に失礼します」
かれは半分も飲んでいないカップを手に立ち上がった。
「後に何かお礼をさせて頂きますので、
お名刺などお持ちでしたら」
と言われたが、マフラーを先に探しに行ってくださいと
マフラーを巻きつけた大体の場所を教えた。
「一緒に行ってやるのも億劫だし、
コーヒーも残っている。このまま座っていよう」
彼は何度もお辞儀をくり返して立ち去った。
おかしなことがあるものだ。
事実は小説より奇きなり…を地でいっている感じじゃないか、
などと思いながら、フッと思ったことがある。
あの財布を拾って、
100万円の小切手に気づいていたとしたら、
即座に交番に行こうとしたろうか…
少なからず、届けようかどうかを考えたのではなかろうか。
小切手は裏書が必要なのだろうか…
等々、考えているうちに、コーヒーも不味くなってきた。
出よう…
それから用を済ませて帰宅に着いた。
…と、前方からさっきの男性がこっちに歩いてくる。
首にはちゃ〜んとマフラーが巻かれていた。
何とはなしに満ち足りた表情をしていると思えた。
すれ違いに挨拶を・・・と思ったが、
彼は僕に気づかないようであった。
…というよりも覚えていなかったのかもしれない。
ただの行き交う人々の二人として夫々に行き違った。
これでいいのだ。
そんなことを考えながら、
すき家に入って、サービス中の牛丼と納豆、青ネギを食べた。
彼は小切手を現金化しなければ現金は数百円しかないはずだ。
しかし、あの満足感に浸ったような顔つきは、
小切手の顔じゃない…現金の顔だ…こんなことを思いながら、
霞ヶ関から溜池を通り、家へ帰ってきた。
昨日の不思議な体験である。
Posted
at 11:25
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コメント(8)
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その通りです。僕にも経験がありますから、
現金だけ抜き取って捨てられたものかな…?
そのような思いに入るか入らないかの咄嗟の瞬間、
背に声を感じたんです。だからよかったとも言えます。
そうでなければ、様々な雑念が脳裡を駆け巡ったかも
知れません。何処のクレジットカードだろうとか。
ポイントカードだけはオフィスデポのものだとすぐに
分かりましたが。お金は元から入ってなかったようです。
ターリーのコーヒー2杯分はあるはず…
彼が持っていた現金は1,000円だったんです。
ダンヒルの財布に・・・