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父の病状ー2[2007年05月20日(日) ]
大正十三年、小さな農家の長男に生まれた父は昭和十九年に戦地へ。終戦後帰ってくるとすぐに山里の農家の末娘と結婚。私が生まれた。大東亜戦争、終戦、農地解放、そして戦後の経済の高度成長へとめまぐるしく変わっていく時代状況の流れ中で、僅か一町五反ばかりの農地を耕し、農業をやりながら四人の子どもを育てて母と生きてきた父にとって、人生とは何だったのだろうか? どんな意味があったのだろうか? 父の人生は満足の人生だったのだろうか? そんな思いが浮かんでくる。

私の他は三人の妹、四人兄弟である。父の入院と同時に、毎日の付き添いは母と三人の妹たちが交代でやってくれている。三人の妹たちは何れも嫁いでいるが我が家から近いところは車で十五分、遠くても車で四十分の距離であるから、この様な時には何かと有難い。四月の中頃までは昼間だけの付き添いだった。

ゴールデンウイークが近づいたある日の未明、まだ時計の針が三時をまわったばかりの頃、突然家の電話が鳴り、病院の看護婦さんから父が三階の病室から飛び降りようとしていると興奮した声で電話があった。私はすぐに駆けつけた。父は看護婦さんと部屋のベットで起きていた。メモ用紙に「先生ありがとう。看護婦さんありがとう。皆さんありがとう。悔いのない人生でした」と、いかにも遺書と言わんばかりの文字がハッキリと書かれていた。この数日前から母に「包丁をもってきてくれ」と何度か言っていたらしい。お見舞いに果物を貰うので、剥いて食べるのだと言うことだったが、何故か不吉な予感がして果物ナイフを病院に持っていっては駄目だと私は母に強く言っていた。母がもっていこうとしているのを偶然見かけて私は止めていたのだった。

父は日頃から「もう覚悟している。どうせ長くないのなら早く逝きたい」と言っていた。死ぬことの覚悟は七年前の胃癌の手術の時にすでに見受けられた。自分の父より長く生きたのでもういつお迎えが来ても良いのだ。みんなありがとう、とその時も言って胃癌の手術を受けた父だった。

一体どういうことでしょうか? 知人に父のことを話したら、知人からは即座に返事が返ってきた。「貴方からお父さんの様子を聞いてすぐに分かったわ、前世はおそらく名のある戦国の武将だったのだと思うわ」

霊的能力のある彼女はこともなげに言った。今までの父の生き方、言動を考えるとそれは当たっているように思う。潔い男であり、決断は早く、行動も迅速な父であった。逆境を屁とも思っていないところがあった。私がまだ東京にいた頃、父はムラから推されて市会議員に立候補した。金に余裕のない父はポスターをカラーではなく、白黒で作った。立候補する人の誰がそんなことを考えるだろうか、カラーのポスターの中に混じって白黒のポスターは却って人の目を惹いた。ムラの皆さんが応援してくれて市議を二期勤めた。郷土の人々の精神が如何に自己中心で、公の心がないかを父は事ある毎に私に話した。父の口にかかるとくそみそだった。だが、父はこの郷土を、この地の人々を誰よりも好きなのが私には分かっていた。熱血漢で良いと思ったことは誰がなんと言おうと貫き通した。

家では暴君だが、母はそんな父によく仕えた。二人は何をするにも一緒だった。父は農協や、議員の旅行で、自分が一人で旅行に出るときには必ず、沢山のお土産を買ってきた。お土産代は概ね旅費の半分だった。母に旅の一部始終を語って聞かせるのが常であった。母はいつも「私は旅行に行かなくてもおじいちゃんの行ったところは自分が行ったよりもよく知っている」と話していた。

病院での夜の騒動があった朝、看護婦さんから「昼よりも夜に家の方に付いていて貰った方が良いのです」と言われ、その夜から母が父のベットの脇で眠ることとなった。

Posted at 21:10 | 人生の最後の時を迎えて | この記事のURL
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コメント


ホワイトローズ さま

お見舞い有難う御座います。
できるだけのことをしたいと思っております。
ありがとうございます。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月23日(水) 18:52

大変でしょうが、お父様が、少しでも穏やかな心の日々持たれますことを、を心からお祈り申し上げます。
読みながら、同じような時代を送ってきたように思います。親の生きて来た道も、、、。

どうぞ、お大事に。


Posted by:ホワイトローズ  at 2007年05月23日(水) 11:46

mino さま

お見舞い有難う御座います。

親を見送るのが子のつとめ、
今はただ、安らかな眠りについて貰いたい
とそれだけを願っております。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月22日(火) 06:37

身内を何人もガンで亡くしているので、お気持ちをお察しいたします。
お父様もご家族の皆さんに見守られて満足だと思います。
きっちょむさんもお身体大切にね
Posted by:mino  at 2007年05月21日(月) 22:56

やうち さま

有難う御座います。
看病となると男は苦手です。
もっともそんなことは言っていられないのですが、
幸いにも妹たちがいてくれて助かっています。
もう残された時間はあまりないのです。
父がこれ以上苦しまずに逝ってくれることだけを祈っております。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 22:18

お話をお聞きしお父上の付き添え看護のことが、自分も体験した九年前の母の逝くまでの看護過程に類似していることです。
病は違いますが自分の母の場合は、泊まり込みの看護が正月を挟み2週間余り続き、その間、家族・自分の姉妹・親戚(母の姉妹)が時間割を作って行いました。この年は、大晦日・元旦を母とともに病院で迎えました。幸いきっちょむさまに3人の妹さんが近くにおいでとのことで母上も心丈夫でしょう。この先、お父上も心が落ち着きになれば肉親の暖かい思いやりをきっと感じられることでしょう。今が頑張り時です。頑張って下さい。
Posted by:やうち  at 2007年05月21日(月) 18:04

花よりケーキさま

有難う御座います。
母と父の様子を見ていると、
父には子どもたちではなく、母が一番良いのだな、と思います。
一つの魂が二つに分かれてこの世に男と女で生まれてきて、
夫婦という絆で結ばれ、学び合っているのかな、と思います。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 17:47

マリー さま

お気づかい頂きまして、ありがとうございます。
ここまで来たら、
ただただ安らかに旅立って欲しいと願っております。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 17:32

ふわり さま

ありがとうございます。
父も家族も皆、覚悟はしていますが、
その時が近づいてきたのを感じています。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 17:29

ルルさま

今朝、父は先生に、早く楽にしてくれ、と!
先生は、お父さんの苦痛が激しいので、全身麻酔用の薬を点滴します、と私に。
その点滴をし始めてから、父はただただ眠っております。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 17:25

rinちゃん さま

ありがとうございます。
父を見送るに誰もそばにいないというわけにはいきません。父はやはり母にいて貰いたいようで、妹が母の代わりにやってくると嫌な顔をします。
今朝から全身麻酔用の薬が使われはじめました。
Posted by:きっちょむ  at 2007年05月21日(月) 17:20

ご家族みんなが一緒になって お父様を見守っていらっしゃって
お幸せだと思います。
仲の良いご両親ですね 夜お母様が側に居られるのは心強い事でしょう
潔い人生を過ごしてこられた お父様が最後まで穏やかであられるように
祈っています
Posted by:花よりケーキ  at 2007年05月21日(月) 09:14

アップされてから何度も読ませていただきました。
コメントがうまくかけません。
でもお父様は 満足した、良い人生を送られたのでしょうね。
奥様と何をするのも一緒。安らかにお過ごしになることをお祈りしています。
Posted by:マリー  at 2007年05月21日(月) 08:30




心穏やかにおいでになられますように
 ひたすらに それだけを祈念申しております。
Posted by:ふわり  at 2007年05月21日(月) 08:20

戦国武将のお父様…
きっちょむさまもその血を受け継いでいらっしゃると思います。
今日は叔父の四十九日の法要でした。
航空隊だった叔父や自分の父と重ねて拝読いたしました。
昔の男はカッコ良かったですね…
読んでいると辛くて…前回同様に、それしか言葉が浮かびません。
Posted by:ルル  at 2007年05月21日(月) 00:58

前のも合わせて、読ませて頂きました。胸が詰まる思いです。
そして、私の父が、パーキンソンで闘病後逝った事、一時も離れず母が看病した事を思い出しました。
武士の魂を持ったお父様のお気持ちが、少し分かるような・・・。
親族が一丸となって(私の友人などはそうではなかったから)、お父様を見守ってあげられると言う事は、大変な状況の中、ある意味で幸せな事です。
Posted by:rinちゃん  at 2007年05月20日(日) 23:08

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