3月に入って同居している82歳の父の声が突然出なくなった。明け方喉が裏返しになるほどの咳をしているような音が階下から聞こえ、朝食時に降りていくと父は声が出せなくなったことを微かなかすれた声で言った。耳を父の口元に近づけると聞こえるが、少し離れると聞こえない。喉に異変が起こっているのだ。その日は朝一番に町の耳鼻咽喉科の医院に父を送っていった。
医院からは新潟市内の大きな病院の耳鼻咽喉科の医師宛の紹介状を頂いて父は出てきた。その足で病院に行く。全部予約制のこととて4時間以上待って漸く診て頂いたが、左の声帯が全く動かないとのこと、エコーという機械で映し出された映像を見せられながら若い医師から説明を受ける。消化器、あるいは呼吸器、また肺に何かの異常があり、左の反回神経が麻痺しているのだという。何れにしろ検査の必要があるが、父がいつも診て頂いている地元の病院に今までのデータがあるので今度はそちらの病院の医師宛に紹介状が書かれた。
翌日、地元の病院に父を送って行くとすぐに検査入院となる。次の日、仕事に出ている私のところに病院から電話、外科の先生のお話があるという。少し不安を覚えながら病院に急ぐ。約束の午後4時ちょっと前に病院に着くと医師はすでに待っておられた。大きな紙袋から肺のレントゲン写真が出され、説明を受ける。左の肺の心臓のすぐ上あたりに2センチ弱の丸い白い影が映っている。ほぼ一年前に撮ったレントゲン写真だった。この時すでに本人に肺癌だと医師は伝え、手術を奨めたが、父はこのままで良いと、手術を断ったのだという。高齢だということもあり、手術をしても成功の可能性は50lくらいだったので、医師は無理にとは言わなかったのだそうである。今日撮った写真は癌が6センチ強に大きくなっていることを示していた。心臓も大きく見えた。癌細胞が広がっていき、左の反回神経を麻痺させているのだという。医師から、もう声は戻りませんよ、といわれた。医師は私に「このまま行くと、もって後二〜三ヶ月でしょう。心臓に癌細胞が食い込んできているので心臓が破れるか、あるいは停止するでしょう」と説明された。
父は延命治療を一切拒否する旨を医師に伝えていたことを医師から聞かされた。。七年前に胃を全摘する手術を受けて以来、もう人生は終わったと父は思っているのかも知れないと私は思った。酒の大好きな父は胃癌の手術直前まで酒を飲んでいた。胃癌で胃を全部摘出したあと、一年位は酒をやめていたが、またやりだし、喉がおかしくなりかかっているのを自覚しながらもまだ飲んでいたのだった。
人生の最後の時に向かって父はどんな想いで酒を飲み続けてきたのだろう、ふと私はそんなことを考えた。
医院からは新潟市内の大きな病院の耳鼻咽喉科の医師宛の紹介状を頂いて父は出てきた。その足で病院に行く。全部予約制のこととて4時間以上待って漸く診て頂いたが、左の声帯が全く動かないとのこと、エコーという機械で映し出された映像を見せられながら若い医師から説明を受ける。消化器、あるいは呼吸器、また肺に何かの異常があり、左の反回神経が麻痺しているのだという。何れにしろ検査の必要があるが、父がいつも診て頂いている地元の病院に今までのデータがあるので今度はそちらの病院の医師宛に紹介状が書かれた。
翌日、地元の病院に父を送って行くとすぐに検査入院となる。次の日、仕事に出ている私のところに病院から電話、外科の先生のお話があるという。少し不安を覚えながら病院に急ぐ。約束の午後4時ちょっと前に病院に着くと医師はすでに待っておられた。大きな紙袋から肺のレントゲン写真が出され、説明を受ける。左の肺の心臓のすぐ上あたりに2センチ弱の丸い白い影が映っている。ほぼ一年前に撮ったレントゲン写真だった。この時すでに本人に肺癌だと医師は伝え、手術を奨めたが、父はこのままで良いと、手術を断ったのだという。高齢だということもあり、手術をしても成功の可能性は50lくらいだったので、医師は無理にとは言わなかったのだそうである。今日撮った写真は癌が6センチ強に大きくなっていることを示していた。心臓も大きく見えた。癌細胞が広がっていき、左の反回神経を麻痺させているのだという。医師から、もう声は戻りませんよ、といわれた。医師は私に「このまま行くと、もって後二〜三ヶ月でしょう。心臓に癌細胞が食い込んできているので心臓が破れるか、あるいは停止するでしょう」と説明された。
父は延命治療を一切拒否する旨を医師に伝えていたことを医師から聞かされた。。七年前に胃を全摘する手術を受けて以来、もう人生は終わったと父は思っているのかも知れないと私は思った。酒の大好きな父は胃癌の手術直前まで酒を飲んでいた。胃癌で胃を全部摘出したあと、一年位は酒をやめていたが、またやりだし、喉がおかしくなりかかっているのを自覚しながらもまだ飲んでいたのだった。
人生の最後の時に向かって父はどんな想いで酒を飲み続けてきたのだろう、ふと私はそんなことを考えた。
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at 10:29
| 人生の最後の時を迎えて
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