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古代の恋歌(2)[2006年07月01日(土) ]
  
 あかねさす紫野行き標野行き
      野守りは見ずや君が袖振る
             (額田女王)

 紫草のにほえる妹を憎くあらば
      人妻ゆえにわれ恋ひめやも
             (大海人皇子)

  この二つの歌は、蒲生野遊猟の時に 額田女王と大海人皇子(後の天武天皇)との間に交わされた万葉集の中では有名な歌です。

 この歌を初めて読んだ時、昔の人は恋愛をするにしても こんな歌のやりとりなんかして何て優雅なんだろう、と思いました。
 返歌の中の 「人妻ゆえに」の言葉が『エ?何で?』と多少気にはなりましたが、それが歌の印象を変えてしまう程のことはありませんでした。

 ところが、間を置いて、先のブログ中の「君待つと〜」の歌を知り、それが大海人皇子ではなく、中大兄皇子(後の天智天皇)に向けて詠まれたものであり、その返歌として鏡女王が「風をだに〜」の歌を詠んだということを知り、私の頭の中で混乱が起き始めました。

 額田女王は、始め、大海人皇子の后であり、後に中大兄皇子の后となった人なのだそうです。
 后といっても 額田女王は、采女(うねめ、神の声を聞く人)という特殊な地位の人であった為、「書紀」には、后としての記載はなく、正式な皇后というものではなかったようです。しかし、恋人、というのも軽すぎる表現か、と思い、一応 后と書きました。

 先の歌は、額田女王が もう中大兄皇子の后となってからのものですが、この歌のやりとりでわかるように、この時、まだ額田女王の心は大海人皇子の元にあり、大海人の心も額田女王にあったようです。
 イメージが狂うかもしれませんが、わかりやすく言うと 額田女王を冬ソナのユジンに例えると、チュンサンは、中大兄皇子ではなく、大海人皇子の方だったようだということです。

 これに対して、中大兄皇子は、大和三山にまつわる妻争いの故事を引きあいに出し、
    
    「三山歌」
「いにしへも 然なれこそ うつせみも 妻を あらそふらしき」  と詠んでいます。
 
 そして、この三角関係のもつれは、壬申の乱の遠因になったと 伴信友という人が「長等の山風」の中で書いています。伴信友の名はあまり知られていませんが、この人は、「玉勝間」の中で 鏡女王と額田女王の姉妹説を書いた 本居宣長を師とする研究家です。 
 
 近代になり、折口信夫という作家が、これはそれ程大きな意味を持つものではないと提唱し、諸説ありますが、「大織冠伝」という本の中に、蒲生野の宴席で大海人皇子が 中大兄皇子の前で槍で敷板を貫くという事件を起こし、それを中臣鎌足が仲裁して治まったという話が書かれていて、私はどちらかというと、伴信友の説の方が本当のような気がしています。
 
 昔は、一般社会でも長兄の言う事には逆らえませんでした。
 まして皇族となれば、長兄は絶対的な存在と思います。
 でも、だからといって恋人まで連れて行かれるというのはどうなんだろう、
 中大兄皇子の方はあまり感じなくても、大海人皇子の方には逆らいたくても逆らえない屈折した思いが積み重なっていったのでは、と思えてきます。

 額田女王のことで長くなりすぎましたが、もう一人の 鏡女王、この人は、始め中大兄皇子の后となり、後に中臣鎌足(後の藤原鎌足)の正式な后となりました。

 ここまで書くと、中大兄皇子って何だか旗色の悪い、嫌な感じの兄、それでいて 時期は違っても、鏡女王や額田女王のような素晴しい感性の女性を二人とも恋人に持っていたなんて、何て幸せな人、と思えてきますが、この人、実は、とても悲恋の人なんです。

 私がこの時代の歌や、人間模様をほんとに面白いと思い始めたのは、このあたりからで、この次は、その中大兄皇子の側にたったお話をしたいと思います。

                    (続)

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コメント


szsさま はじめまして。コメント有難うございます。 色々残されている話を照合すると 伴さんの説の方が何だか自然に感じますよね。 下手な文ですが、よろしければ、続きも是非ご覧になって下さいね。 はじめ、歌にちなんで少し書くつもりだったのが、一度で書き切れなくなり、何だか続きものみたいになってしまいました。この続きも書きだすと、あれもこれもになり、どこまで書こうかと今思案しているところです。 これからもどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by:  at 2006年07月08日(土) 13:57

その恋は井上靖の小説で知りました。私も伴信友の説の方を信じていますよ。
Posted by:szs  at 2006年07月08日(土) 04:59

ハーブティーさま お久しぶりです。仰る通り、いきなり歴史本で読み始めると 嫌になるほど難しいことばかり書いてあります。なので そこから出来るだけ読みやすいところばかりまとめて書こうと 思っています。 下手な文ですが 続き、是非ご覧になってくださいね♪
Posted by:  at 2006年07月05日(水) 19:12

歴史物というと、年号が・・・とか名前が難しかったりで、ちょっと苦手なのですがいにしえの人々の恋模様・・・・歌で交わす恋文など、とてもロマンに溢れているように思います。ここで、まさかの冬ソナが出てくるとは思いもよりませんでした。続きが楽しみで〜す。♪
Posted by:ハーブティー  at 2006年07月05日(水) 16:59

宵の明星さま 色んな説があるので そうかもしれません。「君待つと〜」の歌の存在を考えるとそうかもしれないとも思います。 深く知ると中大兄皇子は、女性から見て、とても母性愛を感じる人のように思えます。この皇子の悲しみは 次に書こうと思っています。 二人は気づいていないでしょうけど、どこかピュアなところが兄弟よく似ているのかもしれないですね。
Posted by:  at 2006年07月03日(月) 16:44

むかーーし 井上靖の『額田女王』を読んだのを思い出したのですが 忘れてしまいました。でもそのとき 中大兄皇子のほうが 素敵だと思ったような気がします。女王も中大兄皇子のほうを 深く愛したような気がしたことだけを覚えています。思い違いかもしれません。。
Posted by:宵の明星  at 2006年07月03日(月) 13:25

とめさんさま そうですね。兄弟姉妹が仲良く夫婦になれば、何てことないことでした。 この話、知れば知る程、確かに混沌とはしてきます。 しかし、そのややこしさにもかかわらず、惹かれるところがあるのは、大海人皇子も中大兄皇子も 心の中が意外にピュアに感じられる処が多かったからでした。   次に書こうと思っていますが、特に中大兄皇子はピュアな心を持った人と感じます。 勝手な気持ちですが、色んな本を読んで 二人の生き様を知り、私は 額田女王と大海人皇子の恋、そして中大兄皇子のもうひとつの恋を応援したい気持ちになりました。 だから、こんな続きも書こうとするのかもしれません。(´ー`)
Posted by:  at 2006年07月02日(日) 00:41

それぞれの立場から悲恋の物語が進んでいきそうですね。昔も今も、男と女の恋の物語は、どうにもならない深い深い世界があるようで、常識とか、思いやりとか、兄弟愛とか、奇麗ごとではすまない愛憎のうねりが垣間見られます。二組の兄弟姉妹があって、兄と姉、弟と妹が仲良く夫婦になり、それぞれ幸せに暮らしましたとさ。で終われば、なんていうことのないありふれた話だったのに……あろうことか、兄貴が弟の奥さんに恋をした。そのために、自分の嫁を離縁して部下に押し付け、強引に弟から奥さんを奪ってしまった。ボクが知りたいのはこのときの奥さん(額田王)の本心です。「人妻ゆえに」と兄貴が悩むのも、これは同じ男として解ります。お姉ちゃん(鏡女王)も可哀想。物語は混沌とした世界に入り始めました… か?
Posted by:とめさん  at 2006年07月01日(土) 21:05

アンヌさま ごめんなさい。冬ソナ見ていない方には余計わかりにくい説明でした。(´Д`;)  よく読んでいただいて有難うございます。 ゆっくり思い出しながらの下手なお話になりそうですが、是非また続きも読んでみて下さい。
Posted by:  at 2006年07月01日(土) 19:48

冬ソナ見たことがないのでわかりやすくありません。でも、よく読んでわかりました。とても面白い。続きが待ち遠しいです。
Posted by:アンヌ  at 2006年07月01日(土) 16:47

あきさま その通りです。 このふたりは、朝参の儀で蘇我入鹿をたおした 大化の改新の中心人物です。 タイムスリップはもう少し続きます。また、是非読んでくださいね。 色々思い出しながら書いているので ゆっくりですが。
Posted by:  at 2006年07月01日(土) 12:30

中大兄皇子と中臣鎌足って、大化の改新に登場する人ですか?タイムスリップしているみたいな、感覚になります。
Posted by:あき  at 2006年07月01日(土) 10:07

evaさま そうなんです。 知れば知る程、人の心がちっとも変わっていないことがわかり、だから切りがないほど面白くなってしまって困ります。(´∀` )
Posted by:  at 2006年07月01日(土) 09:41

ルルさんのお家の近くに 碑があるのですか。いつか登場するのを楽しみにしています。昨日は、テレビのニュースで愛染祭りが紹介されていましたが、ルルさんのブログで 一歩先に知った気分になりました。(´ー`)
Posted by:  at 2006年07月01日(土) 09:37

大好きな明日香の里に大人の恋有り…。しかし、昔から人ってちっとも変わって無いのですね…。(^^;)
Posted by:eva  at 2006年07月01日(土) 09:16

絶対的な存在の長兄…屈折した思いが分ります。折口信夫も大阪の人ですね、近所に碑があります。又いつか『なにわ夢便り』に登場してもらいますね〜(*^_^*)
Posted by:ルル  at 2006年07月01日(土) 05:31

明日香村は 眺めも良くて素晴しいですね。古代から変わっていないような空気が 私も好きなんです。
Posted by:  at 2006年07月01日(土) 01:44

今年、明日香村に行きました。あんな素晴らしい所とは、、だから、こんな素晴らしい歌がたくさん読まれたのですね。
Posted by:みちこ  at 2006年07月01日(土) 01:34

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