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【手談への誘(いざな)い・第27回】名人戦 (3) 【2007年07月01日(日) 】

日本棋院は80年を超える歴史のある公益法人です。大正13(1924)年、大倉財閥の御曹司であった大倉喜七郎の援助を得て財団法人日本棋院が設立されました。
しかし、日本棋院の財政基盤は戦争によって失われ、財団と呼べるような基本財産も今日に至るまでありません。

この半世紀あまり、日本のプロ碁界、日本棋院を支えてきた最大の収入源は新聞社を筆頭にスポンサーから得る棋戦契約金です。一時は少なくなかった免状収入や雑誌・新聞(週刊碁)の発行収入も近年激減し、棋戦収入に依存する割合がいっそう増しています。

戦後の復興とともに囲碁界も盛んになり、棋士の数が増え続けました。昇段者も多くなり、棋士に支払う対局料等は増加の一途。半世紀前、昭和30年代前半の日本棋院は、収入の伸びが支出増に追いつかない実態でした。

経営が苦しくても、囲碁の技芸向上と囲碁普及を使命とする日本棋院は次代を担う棋士の採用をストップできません。また、碁を打つほかに生きるすべのない専門棋士をリストラすることもできません。

増収を図るか、支出を減らすか。
かつては増収によって切り抜けてきました。昭和30年代後半、そして50年代前半に。
増収の妙手を見出せず、好手もなかなか打てない昨今は、人件費の削減によって赤字の圧縮を続けています。職員の削減、棋士への支払いカット……寂しい日々です。

昭和36(1961)年に名人戦が誕生。51(1976)年に棋聖戦の創設。いずれも、その背景に日本棋院の財政難がありました。

「昭和35年ごろ、日本棋院は財政的なピンチにあった」
『昭和囲碁風雲録・下』((岩波書店2003)にもそうあります。
最大の収入源である棋戦契約金は、大新聞三社(朝日・毎日・読売)の申し合わせ(三社協定)によって抑えられ、棋士の不満が高まっていました。
同書で、著者の日本棋院六段(現役棋士)中山典之(1932−)はつぎのように書いています。

棋士たちの間には、何か新しく大棋戦が出現して、破格な契約金を出してくれるスポンサーはいないものかという話がヒソヒソ話になり、やがて声高に語られるようになった。(中略)
昭和35年の6月に日本棋院で理事の改選があり、それまで長年に亘って渉外担当理事を担当してきた村島七段が落選。名人戦実現を公約として掲げた藤沢秀行八段が渉外担当理事になった。棋士たちの世論を代弁しての政権交替であり(中略)これまでのやり方を一新しなければ、という若手棋士の声に押されての人事だった。

つぎは日本経済新聞「私の履歴書」に掲載、『碁打ち秀行−私の履歴書』として同社から刊行された後、加筆再構成された同名の角川文庫(藤沢秀行1999)より。

昭和35年の改選では筆頭理事である渉外担当理事に選ばれた。大役とは一にも二にも棋院の財政基盤の改善----より端的にいえば、新聞社との契約金を高くすることにあった。(中略)囲碁界発展のためにも、超大型棋戦を創設すべきである、と考えた。こうなれば名称のもつ重みからいっても、「名人戦」以外には考えられない。

藤沢秀行名誉棋聖(1925−、九段、1998年引退)は「しゅうこう先生」と呼ばれ、その破天荒な生き方で有名な大棋士です。藤沢朋斎九段(旧名庫之助、1919−1993)と親戚で、年下の名誉棋聖が叔父。

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