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【手談への誘(いざな)い・第28回】名人戦 (4) 【2007年07月15日(日) 】

浜の真砂は尽きるとも、世に談合の種は尽きまじ

あ、いや…石川五右衛門の辞世* は「談合」でなく「盗人」でしたね。

囲碁の世界も江戸時代には談合がありました。幕府から扶持を得ていた家元四家(しけ、本因坊・安井・井上・林)の間で互いの利益や立場を守るため、稀に八百長があったと伝わっています。

生身でぶつかり合う激しい競技で、毎日全力のガチンコ勝負をしていては選手の身体がもたず、故障者続出となれば興行も振るわなくなるでしょう。
タタキ合いで消耗し合うのを避けるために談合は必要悪。ときおり目にするそういった議論も、一面においては理解できます。

囲碁も一対一の格闘技ですが、頭脳の勝負。ですから、一週間に1局、2局なら年間を通じて全力で戦い続けても、幸いなことに選手生命が縮まることはありません。
今日、日本碁界・プロ棋戦で談合や八百長はないと断言できます。

しかし、碁盤の上のことでなく、盤外の話となると…
半世紀前はたしかに、囲碁界で談合があったようです。日本棋院は被害者ですが。

『昭和囲碁風雲録・下』(岩波書店2003)に中山典之が書いています。

朝日新聞が大手合に順位戦を導入して名人戦をこしらえようとして、失敗に終わった昭和27(1952)年に、朝日の信夫専務、毎日の渡瀬常務、読売の安田副社長の三人が集まった。
朝日が名人戦の企画に他社の数倍の予算を計上したことが問題視されたのであろう。囲碁と将棋の企画に、これからは競争を極力自粛し、諸経費を増大させないという、いうなれば三大企業の談合である。
碁の分野では、朝日が大手合、毎日が本因坊戦、読売は呉清源をメインとする十番碁とそれぞれの陣地を決め、さらに
  A、名人戦の名称は、行事としてはもちろん、新聞社主催の場合も使用しないこと
  B、名人位の規定変更は三社の承認を必要とすること
  C、大手合、本因坊戦のほかは行わぬこと
  D、三社以外の新聞社の企画についても、実施に当りあらかじめ三社の諒解を求めること
などなどの確認を日本棋院に要求した。
よく読んでみれば、相当に乱暴な話であり、(中略)当時の日本棋院は三大紙との契約金が収入の大半を占めていたから受諾せざるを得なかった、とされる。雑誌や単行本の売上高や、免状料などは、まことに微々たるものだった。

名人戦の誕生と変遷。
その歴史を、中山典之、呉清源、高川秀格、藤沢秀行らの著書を参考にしながら辿ってみると、今日の囲碁界・日本棋院がかかえる諸問題の実相も見えてきます。(続く)

* いしかわごえもん(1594年に釜煎りの刑で死亡)…安土桃山時代、京都に出没した盗賊。江戸時代に浄瑠璃や歌舞伎の演題として人気を博し、伝説の大泥棒として知られる。信頼できる史料は乏しく、釜煎りを除けば、有名な辞世の句も含めフィクション。

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