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具墨(ぐずみ)になり [2008年05月11日(日) ]
肌がくすんできた
目鼻が古い板壁に浮かぶ紋様になる
粗い色合いのなかに
節穴のアクセントが
なんとか顔の面子を保ち
風雪によるのか
朽ちていく過程がどうだとばかりに
あまりにも明らか

心臓を裏返すと痛い
外が内になり中が外になり
さらけ出て
鼓動がさらけ出て
元の基の
dokkin dokkinがむき出しになり
縦横の血管に血が走るのを見ていると
遠い昔の
母の青く透き通った乳房に
細く浮き出た線を憶い出し
自分を懐かしく見つめて痛くなる
これがくすみということか

くすんでいく

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 モーツァルトな朝 [2008年04月20日(日) ]



ほうとに こだわらない ひとですね
しばられない おとを
じゆうに あやつって
あかるく かろやかに
わたしの あさに あらわれて
‘おはよう’と あいさつして
ゆめみごごちを そのままにして
ずるいひとです あなたは
ここちいい ひなんを
あさの コーヒーにして
のむんですね
わたしは まだ あさのコーヒーを
つくっても いないのに
あなたは 
こゆびを たてて のむのですか
カップの おとを
わざとらしく 
じぶんの おと にして
オンプを いっぱい
ばらまくんですね
だから
あなたの あさなんです

Posted at 06:14 | | この記事のURL
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ゆっこちゃん [2008年04月19日(土) ]




へいを またいだら
となりの ゆっこちゃんが
てを ふった
ぼくも てを ふったら
おっこちちゃった
いたかったけど
ゆっこちゃんが わらった

Posted at 08:04 | | この記事のURL
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看板 [2008年03月19日(水) ]


想い込み老い人は言ったものだ
「豚カツとコーヒーか、
 旨そうかな不味そうかな
 どっちかにした方が・・・」

‘COFFEE and とんかつ’
ひとみちゃんがつくるんだろうか
ひとみさんだろうか
ひとみ!だろうか
きっとたれ目がぱっちりした
ぽっちゃり型の顔だ
勝手に想い込みが
どんどんふくらんで
風船になって

喰ってみなくっちゃあと
開店しているのかどうか
札が出ているのかどうか
確かめようにも
青い車が邪魔で見えない
スポーツタイプの青い車は
ひとみを隠して
一人占めにしようと
見えないようにして

老い人は背伸びをしたが
薄汚れたむなしい壁の色から
きっとやってはいないと
勝手に判断した
面倒だから
青い車が邪魔しているからと
やっていないと決めてしまった
ほんとうは
‘ひとみ’は寝ていた
土曜日の朝八時に
まだ寝ていたんだ
この頃ずっと寝ているんだ

色を見る目が落ちてきて
くすんだ自分を壁に映して
老い人は
また想い込む
刻んだ沢山のキャベツと
豚カツの形と
小じゃれたカップのコーヒーと
大盛りご飯
もうそれしかない

青い車はいつまでも動かなかった

Posted at 08:18 | | この記事のURL
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洗って滓 [2008年03月05日(水) ]
なにがあるのかポケットを探ったとき
忘れていた紙を洗濯してしまって
丸っこいかたまりで残っていた
爪に引っかかったメモの滓は
白く毛羽立っていた

なにもなく空っぽになったと
知るときの怖さは
冬の明け方冷え込んで
どんどん冷え込んで
ハァと息を吹きかけた手で
耳をふさいで
コンクリートの冷たさを見て
そういうとき
不意にやってくる

揉みしだいだメモの滓は
カスだから空に舞って
どうせカスだからと
生きてきた時間が書いてあっても
カスはカスだと
自分で決めてしまう
字の断片に
どれほど自分があっても

空の洗濯機を回しながら
水流を見ながら
自分まで洗ってしまう
絞って滓にしてしまうことがあるのかと
アース棒に言ってみた

Posted at 12:25 | | この記事のURL
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夕暮れのマロンケーキ [2008年02月06日(水) ]
バスを降りて
小雨を避けて
走って入ったケーキ屋さん
あなたの好きなマロンがあって
電話をしたらいらないといわれて
それなら
苺ケーキでいいと
買ってまた走って

何故買ったの
そんなの分からないと
たった一個のショートケーキを
250円の甘いかたまりが
おもりの重さで
何故何故と
腕にぶら下がって

あなたのマロンを
あなたの口で食べたら
あたしはこんなに
苺を抱えて走りはしない
あなたを抱えて滑ったりしない

雨が雪に変わって
夕暮れのさみしさが
あたしの足を止め
苺を凍らせていった
マロンの代わりの苺
あなたの代わりのあたしに
煙った薄い陽が
弱々しく話しかけてきた

さようならマロン
これからは
ケーキ屋さんであなたを
さがしはしない
見つけたら
そのとき凍るの
あたしの苺ケーキと一緒に
冬の夜間近に
凍って
凍って さようなら
 

Posted at 05:10 | | この記事のURL
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澱み [2008年02月03日(日) ]
よどんで どんどん
よどんで どん
歳を喰って時間を喰って
喰い滓が溜まって
ノートに貼り付けて
‘自分の歴史’と
わたしは堂々と
言う自信がない

それは
よどんで どんどん
よどんで どん
書き連ねるには
あまりも粘りっこく
黒褐色の底が
メタンの世界で
上澄みながら灰色の
濁りがあぶくで動いて

だから
よどんで どんどん
よどんで どん
澱みを通して空を見て
いくら蒼空でも
結局はまだらな曇り雲
悲観な人間といわれ
それなら喜観楽観歓観を
志してみたが
目にまで澱みがしみ込んで
目薬注そうが目医者に行こうが
時間の膜は剥がれない

よどんで どんどん
よどんで どん
どんどんよどんで
どん よどみ

Posted at 08:03 | | この記事のURL
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流れて [2008年01月31日(木) ]

山渓(やま)を辿り
どぼしゅらしゃらら と
谷に小さな川が流れ
変わりのない混みいった
水と水がぶつかり
水と岩がぶつかり
水が小石を流し
さっさと行ったり
のろまに澱んで
どぼしゅらしゃらら と
朝は霧を引きつれて
川鴉の餌場を昼が与え
寂しさを知って
陽の翳る夕方に
蜻蛉(かげろう)に跳びつく
岩魚の影が橙色に光る
どぼしゅらしゃらら と
いつまでも同じ音を
そういえば友と聴いた


逝った友が月になって
せせらぎに友の顔を見て
淡い闇の蒼のなかを
どぼしゅらしゃらら と
少しは囁く流れになった

Posted at 17:46 | | この記事のURL
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蜜柑 [2008年01月12日(土) ]


ぼくはみかんをふた口で食べる
直径五センチならふた口
四センチならひと口だ

みかんは 太陽を貯めている
陽を含んで
陽をいっぱい吸い込んで
十ばかりの袋に分けて
この中に風が
山間(やまあい)の風がそっと
砂糖を入れていく
袋はあんまり欲しくないけど
風が持っていけと怒るから
仕方なしに砂糖を入れてやる

陽と風は
僕がみかんを食べると
山へ帰っていく
温州(うんしゅう)の
暖かい日だまりで居眠りする
爺っちゃと婆っちゃの
皺寄った目頭に
小さな涙になって
地面に流れて
また
みかんの木に吸われて
ほーわらほーわら吸われて

だからぼくは
袋のまま食べるんだ
白い筋も汁も涙も
いっぺんにみんな食べるんだ

Posted at 14:38 | | この記事のURL
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そそぎ陽(び) [2008年01月07日(月) ]


囲炉裏に小さな火が燃えて
ぽっぱぱぽっぱぱ燃えて
しわくちゃ爺っちゃのしわくちゃ想いが
そのまま次郎の想いになった

東京に出て
十八で東京に出てきて
喧しいビルの群を
とうとうあたり前の風景にしてしまい
小さな火を忘れて
古里は鬱々なんだと
思い込んできた十二年

正月に帰って
しわくちゃ爺っちゃは
その前に逝ってしまった
正月に囲炉裏を見たら
しわくちゃ座布団が尻の形を残していた

重ねあった薄雪山は
冬の精を積もらせて
その上に
幾層かの厚い雲を破り
陽が偉そうに救世主と思い込んで
小さな陽を降り注いでいる

なんだかしわくちゃ爺っちゃが
狭い囲炉裏で火を焚いている
山の上で黙って
ぽっぱぱぽっぱぱ
小さな火で陽をつくった
次郎は山に向かって
手のひらを向けた
笑いの少ない爺っちゃだった
皺にあったかい日を刻んでいた

次郎は家族に話した
自慢の書斎をつぶして
ぽっぱぱぽっぱぱ囲炉裏をつくるぞと
腕を組んで威張った
子供は爺っちゃそっくりに
くっくくっと小さく笑った

Posted at 12:56 | | この記事のURL
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