シニア向けコミュニティ STAGE ステージ
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小さな食堂 [2007年12月30日(日) ]


じいちゃんが皿を全部洗った
ばあちゃんは卵焼き用の皿を見た
‘じいちゃん よごれ のこっとぉよ’
‘どこじゃぃ’
‘ほれ みぎっかわの すみっこ’
じいちゃんは
力仕事でぶっとくなった人差し指で
きゅきゅとこすった
ばあちゃんは「もー・・」と笑った

でかいじいちゃんが
調理場に居ると狭っ苦しい
小ちゃいばあちゃんは
間をちょこちょこ動いて
鯖を焼きながら
いなり寿司の油揚げを煮しめ
‘オッ アー’と掛け声で調子を取って
豆ご飯のおむすびを
ぎゅふわー ぎゅふわーと
握っていく
‘じいちゃん そと はかんね’
のっそりもそもそ
じいちゃんは‘めんどくさかぁ・・・’

曇った師走の朝に
小さなカウンターで
日だまりを探す三毛が
ほわにゃーとあくびした
陳列棚に次々に定番料理が並んで
ストーブのうえでやかんが
ちんぱたぱたちんと鳴る

賑やかに湯気でけむっていった

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さかなになったぼく [2007年12月01日(土) ]
いくら体を動かしても
汗をかかないのは
寒いといって暖まろうと
泳ぎまくる魚だ
冬になって水温が落ち
体力を保つために
じっとそこに沈んで動かない魚
泳ぎまくって体を暖めようとしても
体温は上がらず消耗するばかり

陸に棲む人間は
オイチニオイチニと
冬の公園で体操すれば
白い息とともに
タオルを使うくらい汗をかいて
体が暖まって元気になって
「行くぞー」と駆けだしてしまう

いくら動いても
魚は暖まらない
今のぼくは魚になっている
体ではなく
気持が汗をかかなくなった
気持が大車輪しても
気持が全力で百メートル走っても
あったかくならないし
汗もかかないし
疲れてしょぼんとなって
気持だけ水の中に置いて
澱みを泳いでいる魚になった
汗腺はあっても
汗をかかない魚になった

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うん [2007年11月24日(土) ]


うん
ぼくは沈んでるんだ
狭くなって窮屈になって
ぶっ壊していいのならそうしたいけど
出来ないから沈んでしまうんだ

うん
どうなんだろう
わからなくなって沈んじゃうのかな
空は晴れてるよ
きれいな色がいっぱいあるよ
でも沈んじゃう

うん
おいしい朝ご飯食べたよ
新しい新聞読んだよ
連ドラも観たよ
それでも沈んで
昨日と変わりないから沈んで

うん
鉄の塊じゃないんだから
いつかは浮くよ
明日になったら
大きな川の真ん中で
浮き輪もなしで
ドンブラドンブラ浮いちゃって
どこへ行くのか
わからないけど浮いて

うん
今度はどこへ行くんだろう
沈んで浮いて
どこへ行くんだろう

Posted at 05:19 | | この記事のURL
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秋の陽 [2007年11月14日(水) ]

弁当の時間になると
安倍君はいつも居なくなった
居なくなって探すと
鉄棒の砂場で空を見上げている
ぼくも横に座って
11月の風を受けながら座って
蒸かし芋を半分に折った
その前に安倍君は
すっと立って川畑の方へ
空を見ながら歩いていった

教室で釘の抜けた椅子に座って
窓の外を見た
色が白くて大柄な紀子が
友だちとゴム跳びをしていた
スカートがひらめいて
白いズロースが見えた
ぼくはびっくりして
少年画報の漫画を読み直した
読んでも
何を読んでいるのか
全然分からなくなったので
机の教科書入れに突っ込んで
風でカタカタ揺れる
窓硝子の音を聴いた

陽が射し込んで
木の机が少し暖まって
コガタナで彫った
ゆがんだ正三角形を指でなぞって
午後の数学の時間を嫌だと思い
地球座にかかっている
西部劇三本立てを見に行くと決めた
お腹が痛いとさぼって
「荒野の拳銃王」「無法者の逆襲」
「悪漢バスコム」を見に行った
田んぼから町なかまでの一本道は
土ぼこりのつむじ風が舞い
じっと前を見据えて
保安官と騎兵隊とインディアンと
早撃ちの悪者と草原と美女と
気持はスクリーンを超えて
映像を自分のものにした

木造の机や椅子は遠のき
後ろめたい冷たさが
固いシートにしみ込んで
煙草の煙のなかからの銃声に
無理におののいて
過ぎる時間にもおののいて
やがて家に帰る道をおもうと
寒々しい嘘をおもうと
身が縮こまっていった

教室の机に
今日も陽が当たっている
安倍君は休んでいる
紀子は遠い校庭の隅で
ゴム跳びをしている
ぼくは覚悟を決めて
教科書の分数を見て
寝てしまった
三本立ては当分見られないので
寝てしまった

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猫の場合 [2007年11月08日(木) ]
どうでもいい電話をしていると 
塀越しに猫が通って
カーテンがひらりと風になびいて
午後二時は退屈の時間になり
寝転がって
‘日本の放浪藝’を読んでいると
陽射しが足にあたって
足だけが暖かくなって
げっぷをしたら
コーヒーの匂いが戻ってきて
肘を突いて扉まで腹這いで行き
そっと開けて覗くと
また猫が通った

二階の物干場は古くて
高いところだけど
板が毛羽だって古いので
木の温もりがあって
好きな場所なので
屋根だらけの景色も気にならず
‘北の宿’を口ずさむと
猫が下の屋根を歩いていた

相変わらず痛い脇腹で
永いので慣れてしまって
良いわけはないが
懐かしい友と居るようで
治まると会いたくなり
そんなものが多くなり
肩胛骨の下の痛みも増えて
少し気にしていると
猫がすり寄ってきた

おまえは誰だと訊いてみたが
目を細め尻尾を立てて
やけに細い声で
‘にゃー’しか言わず
かすれて
‘にゃににゃ・・・’
そうか
おまえは猫か
三毛の衣裳を着て
本能の甘えで生きてきて
今さら名前なんて訊くな、か
おれとおんなじだと
失礼ながら思ってしまったよ

Posted at 17:02 | | この記事のURL
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言ひたがり [2007年11月03日(土) ]


山に音色を 聽くやうに
どこで吹くのか 鳥の笛
落ち葉の褥で ひとり泣き
ぼくだ あたしよ 言ひたがり

里に秋風 吹くやうに
柿の實落として 空靜か
ひとり襟立て 寂しくて
お早う こんちは 言ひたがり

人に心が あるやうに
草も野山も さらさらと
風に流れて 今こゝで
暑いね寒いね 言ひたがり

生きて息吹を生むやうに
死んで呻いて 土の中
森羅萬象 見る月は
滿ちたね缺けたね 言ひたがり

Posted at 17:30 | | この記事のURL
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“あきらめ秋” [2007年09月12日(水) ]

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 風景 [2007年09月07日(金) ]


あなたの風景はなんですか
錆びた漁船の喫水線ですか
それとも
落ち葉の奥に潜んで
春を待つ動物たちの吐息ですか

冷たい空気にさらされた
コークの空き瓶ですか
愛を知った錯覚に
陥りたい女の眼差しですか

それとも
千光年も遠い星の光源ですか
飢えに苦しむ子供たちの笑わない唇ですか

あなたの風景は
吹き荒れる砂漠の中にはないはず
空気中のバクテリアのざわめきではないはず

何日佇んでも飽きないのは
木の葉の揺れです
吹きわたる山の風です
凸凸凹凹がメロディをつくります

それを聴きながら母さんの
肌荒れた手を憶い出してみると
風景がどんなに味気なくても
あなたのものになります
優しいあなたの風景になります

Posted at 13:09 | | この記事のURL
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庭に立ち [2007年08月19日(日) ]

夏の庭は
草いきれの懐かしさで
蒸れています
まるで昔の庭のように
蒸れています
夏紅葉に遮られて
影の中
糸蜻蛉や足長蜂が
水を飲みに
緩やかな流れに浮かぶ
小さな水草に止まります

夏の庭は
石灯籠の古えを教えます
照り返さず
室町の時から吸い込んできた
陽の粒子が緑陰に佇み
常夜燈と言われて路傍で
夜道を行く人の旅路を照らし
道中の安全を守っていた
頑固な暖かさは
今もって枯れた梅木を支えています

夏の庭は
時折つくられ
屡々放ったらかしの形を
ほどよく描いて
心の和みを簾に託し
住人は
団扇を小刻みに動かしながら
うとうと
小刻みな白昼夢を見ています





Posted at 07:38 | | この記事のURL
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夏は木にとまって [2007年08月09日(木) ]
井戸で冷やした西瓜の縞に
陽が照り返し
立てかけた虫取り網がコトンと倒れた

「はら、へったー」

ランニングシャツの白い跡もなくなって
向日葵の陰になった小さな少年

蝉の声をかいくぐって
木を見上げて
痩せた背中の汗も拭かずに
幹の出っ張りに手をかけて
30センチ先の油蝉の
腹を震わせる油蝉の
飛び出た目ん玉めがけて
左手をひるがえし伸ばした
落ちて転んで
開かなかった柔らかく結んだ手は
ジィジィ暴れる宝を離さなかった

「ケンちゃん、ごはんよー」

うん、とうなずきながら
小さな少年はそっと指の間から
掌をのぞいて
茶色い生き物が
自分と居ることを信じられず
こそばゆい動きを
確かめてばかりいた

母の白いエプロンが
目の片隅に入り
暑いと仰いだ空にも
蝉の形をした白い雲

粗い木肌に
また蝉が止まった

Posted at 10:21 | | この記事のURL
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