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老いか怠けか---わたしの場合 [2007年03月18日(日) ]
島村抱月の小品に「書卓の上」がある。
かなり大きなテーブルの上には、未読の本や書きかけの原稿、返事を出さなければならない手紙や葉書、要らなくなった資料などが山積みされ、当人は懐手でそれらに想いを致すだけだが、片づけなどの行動には移らず、「あの本は読み終わったかな」「手紙には返事を書いたかな」と思い巡らすのである。
こんな偉い人と同じ感覚で申し訳ないが、私にもそんなところがある。例えばここからも見える本棚だ。決まったスペースで整理するとなると、ジャンル別云々より本の大きさが基準になる。これも完全ではない。正直にいえば、空いたところに詰め込んでいるということだ。まともに並んでいる本の上に真っ直ぐや斜めに突っ込み、それでもはみ出してくると、その分はみかん箱に入れて物置行きだ。もう10箱くらい運び込んだ記憶がある。
今も、座り込んで慣れ親しんだ書名を眺めながらどれを暗い牢屋に押し込めたらいいか考えている。考えているだけで、多分しばらくはこのままだろう。
「江戸時代・流人の生活」の横に渋沢龍彦の「エロティシズム」があり、東山魁夷の「馬車よ、ゆっくり走れ」と小沢昭一の「日本の放浪芸」が並んでいる。脈絡のない自分の性格そのものである。このゴチャゴチャが落ち着くのだ。時には小遣いが乏しくなると古本屋に売り飛ばそうかと思いはするが、この田舎に気の利いた古書屋もなく、抱えて福岡まで出るのも億劫で、結局はいつまでもダラダラと持ち主と同じように生き延びている。
なにも本棚まで行かなくても、乱雑さは目の前にある。HDとモニターに板を渡してプリンターを置き、その上にスルメゲソやおしゃぶり昆布、ニッケあめと柿ピーが入ったカゴに加えて雑誌も2,3冊という現状だ。もの思いに耽りながら硬いゲソを食いちぎり、ファンタジックな写真を見ながらアメをしゃぶる。一部のお母さんが昼ドラを観ながら寝転がって煎餅ポリポリという図に似ている。
乱雑さとモノグサさは当然一致する現象で、炬燵に座り込んでしまうと、目先だけでアレとコレを片づけて、実際に立ち上がるときにはさも一大事のように「ヨッコラショ」のかけ声とともに膝を立てる。ここには島村氏のような哲学的観点など微塵もなく、散らかし
への自己弁護に終始するジジィの怠惰だけだ。
そういえば、座り込んだ老人が通りすがりの人たちをじっと見つめているシーンをよく見る。動けない又は動かないおのれの体の代弁者として、歩き回る人に気持ちを預けているかのようだ。映画を観る観客のように、ゲームに没頭する子供のように、自分の願望を架空の登場人物に託すると同じ感覚である。「あんな風に歩けたら、桜の下を散歩できように」とか「あのように動けたら、どんなバスツァーにも参加したい」と、ひたすら思いと行動が一致できた頃の心持ちが芽生えるのだ。羨望と諦めを込めて、闊歩する人を見るのだ。なにも他人事ではない。私自身が省エネ人間にならざるを得ない体に日々変わりつつある実感がある。
それなら考え深い老人になったかといえばまったくの逆である。枯れたの悟ったのと昔の高齢者は偉かった。67才ならそれなりの規範があって、「隠居」という単語が生きていた。「子供らしく」と同じように「年寄りらしく」があった。しかしおかげさまでと言うか医療というか、食い物が良くなったなどのせいで、まだまだイケルと錯覚して老害を振りまく人たちがそちこちに居る。政治や企業、宗教でも長老と言われて、自分の存在感を見当違いに誇大視してしまう。かくしゃくは良いが、それは周りの人に判断を任せるべきで、引くべき時に引かないとみっともない姿になっていることを知るべきだ。それが年寄りの責任でもある。結構、現代ではそのポジションが難しい。「七人の侍」の村の長老のように、普段は村はずれの水車小屋に住み、一大事となったら知恵を出し決断する。これが望ましい位置ではなかろうか。
それなら我が身はと振り返ると、村人どころか自分一人を持て余している。書いてきたように炬燵にはまり込んで所在なく菓子を食い散らかし、うろんな目つきで周囲を見渡しては屁をこき、時折出っ張った腹を両手で揺さぶっては「メタボかな・・・」と思いつつも、昼間からビールを飲む。1人でもこれだけ度し難いジジィだ。自覚しているだけでもいいのかな。

「屍鬼二十五話」は「昭和恋々」と同じ大きさだから、立ち上がって並べ直そうか。おい、やれよ。おまえだよ、ジジィーと言い聞かせながらも立ち上がらないんだから・・・。

Posted at 08:16 | エッセイ | この記事のURL
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