またメダカを飼いだした。
先日実りの田んぼを撮りに行ったとき、巾30センチほどの側溝でメダカどもを見つけた。なかには鮒らしき大きな魚も見えた。群をなしている。これはひょっとしたら網で捕れるんではないかと、少年の心がよみがえり、そのまま100円ショップで昆虫採集用の網と小さなポリバケツを買った。
それを持って帰って、カミさんに「あした、メダカいっぱいつかまえてくるかんな」と意気込むと、冷たく「んなわけ、ない」のひとこと。
そんでもって、昨日「みてろ、往年のタモさばきを」と水路に立った。水がいくぶん減っている。側溝の深さもけっこうあり、日の照り具合で水面が見にくい。温度が下がったせいか獲物も少ない。
「こりゃ、やばいな」と思ったが、ここで引き下がるわけにはいかない。
上流に向けて網を入れ、静かにのぼっていった。3回ほど繰り返したが、網が白いせいか、まったく引っかからない。
どこかの物好きなジジィが昆虫採取用の網でかき回し、よっぽど捕るつもりなのか、不釣り合いに大きいポリバケツをしっかりぶら下げて、子供顔負けに夢中になっている。こんな風景は最近滅多に見られないのだろう。農道を行き来する車は速度を落として、物珍しげに顔を覗いていく。
約30分ほど炎天下でがんばったが、季節外れのメダカ取りは不調に終わった。ゼローそれ以外のなにものでもない。
しかし大口を叩いて出てきた手前、こんなことで帰れるものではない。いろいろ言い訳を考えたが良い策を思いつかない。あれしかない。
釣り人が釣果ゼロのときの家人対策である、古典的な「魚屋さんで仕入れる」方法だ。そこまでしなくても正直にありのままを言えばいいと言う人もいるだろうが、中途半端な人間性といおうか、へんてこな意地が捨てきれない。
この魚屋さん方式は、例えば出来た奥さんだったら分かっていても「アラ、すごいじゃん」とすべてを受け入れてくれるが、うちのカミさんのように鋭い嗅覚と攻撃性で生きているタイプは、完膚無きまでに暴き、「だから無理だっていったじゃないの」と、ひたすら自分の正当性のみをぶっつける。確かに姑息な手段だったに違いないが、亭主の意地ってものを尊重してもいいではないか。
こんなふうに想いを巡らし、近くのペット屋で黒メダカを10尾ほど仕入れて、しらを切るか誤魔化すか、運転しながら判断を決めかねていた。
まだ刈り入れ前の稲穂が重く垂れ下がる農道は、影が濃くなり、盛夏が過ぎたことを告げていたが、温暖化のせいか名残はあちこちに見えた。
メダカ取りには失敗したが、この辺で農薬が使われていない証しとしてメダカ発見はとてもうれしかった。
だからか、「おい、買っちゃった」と正直に先手を打って告げると、カミさんは最初の予測が当たって機嫌がよく、「そう、買っちゃったの」で終わり、七面倒なやりとりをせずに済んだ。
買うときに驚いたのは、黒メダカ以外にもいろいろな種類が居ることだ。ヒメダカは赤っぽく結構一般的だが、他に、青メダカ、白メダカ、茶メダカが居る。ちょっと調べてみた。
【メダカには4つの色素があるそうで、その中の黒色素胞、黄色素胞、白色素胞の3つの色素を持っているかいないかで色が決められるという。
“ホタルメダカ”は、背が光るメダカで、目の縁や腹にある虹色素胞が背中にあるため。背びれのと尾びれの形が普通種と異なり背びれはしりびれと同じ形をし、尾びれはひし形をしている。
”縮みメダカ”は、普通種と比べると脊椎の数が少ない為に縮んでみえる。普通種が水温の高い環境下で突然変異で体が縮んでしまったといわれている。
ヒカリダルマメダカは、上記の特徴を同時に持ち合わせているとても珍しい個体で、風船の様にふくれた体で背の部分がピカピカと光る。
アルビノは、生まれつきメラニン色素のない個体で、目にも色素が含まれていないので、血管が透き通り赤い目にみえる。】
今でもどんどん新しい品種がつくられつつある。金魚は鮒の改良種と言われ、多種多様な形が見られるが、まさかメダカもその類かとびっくりした。わたしゃやっぱり、小川の黒メダカが良い。どこかのバカが改良種を小川に放流しないよう願うばかりだ。個体の純粋を守るのは人間の責任である。
少しは偉そうにしないと、単なるメダカおやじでは格好がつかない。いや、それでいいんだ。
こうやってじっと見ていると、不思議に一尾ずつの違いが分かってくる。雌雄は背びれ腹びれで判断がつく。体ばかりでかくて鈍いやつ、水草の下で哲学者みたいに考え込んで動かないチビ、餌ばかり食い続けている過食症のデブと、群れていても性格の違いがある。こっちの見方に問題があるかも知れないが、それはそれでいい。飽きない。
「お利口さんだね」「バッカだなー」と勝手に楽しんでいる。と言っている間に、メダカたちは檻を抜けて青空へ散っていったようだ。