備前長船 犬塚昭夫
おれはほしかった
ほしくて
買えなかった
備前長船
おりたたみになった小刀よ
木の枝のゴム銃や竹鉄砲をつくる
白く光る
刃
おれは盗んだ
こっそり盗んだ
十円札三枚三十円
さつまいもを売った売上金でいっぱいの
財布から
油のきれた大八車
さつまいもをつんで売りにいった
大八車を母が引き
おれがあとを押した
道は草がしげり
ズボンがぬれた
小学三年生
学校は休んで
町まで五キロ
押していった
一斤五円のさつまいも
一けん一けん売ってあるいた
いつも買ってくれる家
値切って買わない家
掛で売ることがあった
掛がとれないことがあった
ねぎ
大根
白菜
一緒につんで売りにいった
さつまいもがすくないときは
背中にせおって
売りにいった
空の大八車を引いて
帰りながら
母もおれも疲れた
日はしずんでしまった
母に小刀一挺買ってくれといえなくて
(いえば買ってくれたろう)
盗んでしまった
生きることの重さがつまっている財布から
おれは走っていって
買ってきた
備前長船
文房具屋で
三十円で
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この詩は1942年生れ、昨年1月65才で亡くなった
詩人犬塚昭夫の詩です。
実は「たそがれの島」に登場した廃小学校の卒業生、
私の大先輩となります。
しかし、文学芸術への造詣がほとんどない私は半年
ほど前、初めて教えてもらった次第です。
犬塚さんは大阪へ集団就職されて、所謂労働詩歌に
秀で、「文学大阪」「異郷」などたくさんの詩歌を創刊さ
れたと経歴にありました。
その死を悼み今年1月岐阜県中津川市高山に
「犬塚昭夫文学資料館」が建設されたそうです。
開館に尽力され現館長をされている太田光昭氏と全く
偶然に縁ができたことでその名を知ることになりました。
確か太田館長が「その生い立ちを訪ねて」みたいなこ
とで、かつての生家や通った学校を探したということか
らでした。
この詩を読んで今ひとつピンとこないのはたぶん、
詩の情景が昭和20年代ではないかということです。
唯一「大八車」は一番古い記憶、小学校へ入る前頃
の記憶として確かに見たような・・・淡い思い出として
残っているくらいです。
どちらかと言うと三輪車やミジェットだったか? の方
が主だった曖昧なところもありますが。
もしかしたら
STAGEの会員の方の中にこんな情景が
ピンとくる(失礼かも知れませんが)方もいるかと思い
アップしてみました。