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「仙人岳での遭難」[2008年04月27日(日) ]
 

 こんにちは。それでは、(第三話)
「仙人岳での遭難」を始めます。


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通称仙人岳は、穏やかで平凡な山である。
5月の朗らかな日、この山で地元小学生が楽しく遠足をしていた。
群れから離れた生徒の一人が、朽ちかかった神社で、古い壷を発見した。
群れにもどり、引率の教師にそれを見せると、教師の頭に「大判、小判キラキラ」と浮かんだ。
「おお、おお、」と生徒が騒ぐ中、引率の教師は、どきどきしながら蓋を開けた。
何かポワンとしたものが壷の口から出たように見えたので、逆さまにして振ってみた。すると小さく折り畳まれた、汚い紙切れが、目の前に落ちた。
相当前に書かれたようで、教師が読むには、達筆過ぎた。かろうじて「大雪の素」という文字が読めたが、大判・小判は入っていなかった。教師はそれを放って、群れをまとめ、そのまま遠足を続けた。
その翌日の事である。仙人岳で、大の男三人が、遭難することになるのは。
k市郊にある自動車部品卸業、YARUKI自動車部品(合資会社)、経理課長の根蔵蔵三(43)、営業部長の砂唐奈芽太(53)、そして社長の金尾星人(63)の三人である。


「あそこ、あそこ、あやしい雲です。」
山の中腹で、根蔵が空を指差した直後、猛吹雪が三人を襲った。
晴天の霹靂(へきれき)とはこの事である。すぐ近くに廃屋があったので、慌てて戸を蹴破り、中で天候の回復を待つこととなった。
しかし、一日待ったが、吹雪は治まらない。二日目の夜、食料も尽きた。
事態は深刻さを増し、三人の顔から、当初あった余裕は消えた。
「大体、君が地図をまちがえたから、こんなことになったんじゃあないのかね、んっ?」
持っていた『挑戦!中高齢からの乗鞍岳・難行苦行ルート』を根蔵経理課長の前に放り出して、金尾星人社長が言った。
「仙人岳の地図は、紀伊国屋にもありませんでした。ゼツリン出版社まで尋ねたわたくしの苦労を、、、」
「ゼンリンでしょう。まあ、もうよしませんか。言い争いで雪が止むわけでも無いし。」砂唐部長がひげののびた、焦燥しきった顔で言った。
「ありがとうございます、営業部長。ああ、こんなことになるならパチンコでも行ってればよかった。」と根蔵課長が目をしょぼつかせた。
「いやはや、社長、いよいよもって、僕らはあぶないですよ。何か書き残しておいたほうがよろしくありませんか?」と砂唐が言うと
「弱気だねえ、砂唐くん、そんなところが今期の数字にも出てるんじゃあないのかね。まあ、それにしても私が言い残したいとすればとすれば、スナック・アザラシのママ位かな、んっ。」
それに根蔵が口をはさんだ。
「アザラシのママって、あのブっ、」
「ブって何かね、ブって。」
「あそこのブッ、ブランデーは高いなあって、、」
ひとり砂唐が、遠くを見つめながら言った。
「僕はやはり女房のミコちゃんかな。ええ、中学の時、村の神社の夜祭り。イチゴのかき氷で、口のまわりが真っ赤でねえ、、」
「誰も砂唐くんの初恋などきいておらんよ。根蔵経理課長、君はどうかね?こんな時こそ、結ばれぬ禁断の愛、発覚!なんてね、んっ?んっ?」
独り身の根蔵を、金尾が冷やかした。
「たら子ですね、私は」
「ほう、浮いた話はとんと聞かない君が、色っぽいねえ。どこの馬の骨なんだね、その娘は?」
「骨では無く、卵です。冷蔵庫の中のたら子が、本日12時をもって賞味期限です。こんなことなら、あの晩食べておけば良かったです。」
午後の6時ともなれば、猛吹雪のせいもあり、廃屋内はまっ暗闇になる。
三人はなすべきこともなく、一枚しかないひどく汚れた毛布で、身体を寄せ合って眠りについた。おとといは金尾社長が真ん中、昨夜は砂唐営業部長が真ん中、そして今夜は根蔵経理課長が真ん中の番である。
暗闇の中、男三人が身体を縮める。山の夜は寒い、毛布の中はさながら地獄である。
「、、、」
「砂唐営業部長、わたくしの腿にあたるつんつんしたもの、なんとかしていただけませんでしょうか。」
「ふん、砂唐くんは、まだ若いからねえ。」うとうとしていた金尾が冷やかした。
「、、、」
「、、、」
「ブッ、」
「うっ」
「失敬!んっ?んっ?」
「、、、」
「むにゃむにゃ、、」
「みこたーん。」
「スヤスヤ」
「ンアー、ンガー」
「、、、」
「、、、」
「、、、」
仙人が、枕元に現れたのは、その真夜中であった。
白く長く伸びたひげを、得意そうに撫で付けながら、仙人はひとりひとりにささやいた。
「いいか、他の二人には決して語ってはならぬぞ。残念なことに、今回は、一人だけしか助けることができぬ。オンリーワンだな。この家の入り口を出て西へ、1町ほど行ったところに大きな栗の木がある。そこまで来れば、わしのペットの猫が待っておる。その猫が、お前を麓まで案内しよう。ただし、繰り返すが、助かるのは一人、お前だけだ、オンリーニャン。あっ、さむいかな?どうあれ、このことを他の者が知れば、お前の命は無い。むろん三人とも助かることもない。分かったな。ではさらばじゃあ。」と。


目覚めた三人は、一様に気の重い表情を浮かべ、黙っていた。
沈黙を破って、砂唐が尋ねた
「社長、一町って、今の単位に直すと何メートルですかねえ」
側で爪の垢をとっていた根蔵も、思わず顔をあげ、金尾を見た。
「町(ちょう)ねえ、今の100メートル位かねえ。それがなにか?んっ?」金尾は不安げだった
「栗の木ってどんな葉っぱでしたっけねえ」
根蔵の問いに、砂唐は飛び上がって驚いた。
「まあ、広葉樹の特徴が大きいし、今なら白い花の時期だから、すぐ分かるんじゃあないですか」と砂唐が答えると、すかさず根蔵が詰め寄った。
「分かるってなんですか?分かるって?」
「どっちが西かな?んっ?砂唐くん」と金尾が尋ねると、根蔵がポケットの中から、方位磁針を取り出した。
「おっ、用意が良いねえ、根蔵くん。ちょっとそれを貸したまえ。」
根蔵が、イヤイヤをすると、横の砂唐がすかさずそれを取り上げた。
「社長命令でしょう。ねえ社長。」と砂唐。
「まあ、まあ、砂唐くん。乱暴はやめたまえ。」
「何故、みんなそんなことを言い始めたのですかあ?」取り上げられた根蔵は涙声である。
「例えばだ。例えば、三人が助かる方法があれば、わしも知りたい。だが、昨夜わしが得た情報によるとだ、わししか助かることができんのだ」思い詰めた表情で金尾が言うと、根蔵と砂唐は、顔を見合わせ叫んだ。
「仙人が出た!」
「ほう、」と金尾も声を上げ、二人を見て言った。
「三人とも同じことを聞いているかもしれん。同時に聞いた内容を話せば、三人平等じゃあないかね、んっ?」
「さすが、社長、民主主義の原則だ。せいのお、で正直にいえばよろしいですね。」と砂唐。
「んっ、んっ」と金尾。
「では、僭越(せんえつ)ながら、僕砂唐が音頭をとりますので、お二人ともご一緒に。せえのお!」
「うわあ!」と根蔵が叫んだ。
「そんなことをしたら、そんなことをしたら、みんな死んでしまうじゃあないですかあ」
「おおっ」と金尾が感心すると、砂唐も額の冷や汗を拭った。
「死んじゃうんだ、死んじゃうんだ。」と空腹の腹を押さえながら、根蔵は泣き始めた。
「仙人って何だろう、、」と砂唐がつぶやくと、金尾も「もしかしたら、もしかするかもなあ、んっんっ」とつぶやいた。


その頃、捜索途中の消防団員が、山の測道で、蓋の開いた壷を見つけた。中にくしゃくしゃになった紙切れがあった。消防団団長(108)にその紙を見せると、書の内容が判明した。
そこには、大体こう書いてあった。
「この壷の中は、大雪の素である。古来よりこの山には、いたずら好きの仙人がおり、たびたび気候変動をおこし、悪さをした。村人のこまるのを見かねた当神社開祖、大国之法羅葺王之尊(おおくにのほらふきおうのみこと)が仙人と交渉し、苦心して買い取った壷である。なお、大雪の素とはいえ、その効力は限定的であり、どれだけ長引いても3日分の量である。しかし後世の安心安全を思えばと、へそくりを投げうっての買取りでもあり、しごく、もったいなかったのでもある。夢々この7つの壷を祖末にすることなきよう、末代までの家訓とせよ。云々。」

4日目の朝、晴れわたった空の下、廃屋の中で泣きじゃくる3人を見つけたのは、遠足に来ていた通りがかりの中学生であった。
生命には全く別状ないのだが、一枚の汚れた毛布を三人で、大切そうに持って下りるのを、中学生の群れは怪訝(けげん)に見ていた。
その汚れた毛布を、会社の宝とし、社長以下三人が一致努力して働き、立派な上場会社にしたという噂は、まだ無い。
そして古文書に書かれていた、残り6個の壷は、誰も見ていない。 
                        
                         (おわり)


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文章は、私の夢想です。
この作品のサイズは約37.8×45.5cm(F8号)ボードに油彩
作品裏に作者サインと年期(1965)があります。
入手時期については3年位前だと記憶しますが、出処場所は残念ながらあまりはっきりしません。おそらく業者市場で山になったものを購入、その作品の中の一枚と考えます。

何か固有の風景、例えば、乗鞍岳とか白馬山といった風景なら、おそらくは地名なりタイトルを入れるのが普通でしょう。リアルに描かれてはいるものの、強い非現実性があり、私には空想の風景に思われます。
いかに、非現実的かは、左下の岩場に人の姿を配置すると良く分かります。
現実的に描けば描くほど、非現実になる、シュールレアリズム絵画同様の理想郷が現れます。
このパノラマ的な描き方はどこか懐かしく、昭和という時代感覚だけではない雰囲気を感じます。あえて例をあげると、江戸時代の洋風絵師、司馬江漢の絵のような、劇場的要素も感じます。
この舞台の書き割りのごとく焦点のはっきりした、右側と左角の岩場。シンメトリーの単調さに抗(あらが)って、あえて、歪んだ三角形にした正面の山。これら焦点のはっきりした山々の距離感は、立ち上る霧によって、より大きくへだてられ、絵はがきのように見る人を楽しませてくれます。
山の頂上を、勢い良く飛ぶ雲。かってな空想ですが、私はこの雲たちひとつひとつの上に、孫悟空やら、仙人を乗せて遊びました。するとどうでしょう画面は俄に動きだし、まるで、スペクタクル映画のように私を愉快にしてくれました。


拙い記事におつきあいいただきありがとうございました。
次回は5月4日(日)(掲載時刻未定)
・人物古写真「最後の花魁(おいらん)春奴の恋」
または、・人物油彩画「佐伯警部補の肖像」のどちらかを掲載します。
          

※使用している映像、画像のオリジナルは当方が所有しています。
しかし、これらには出処不明のものが少なからずあります。
著作・肖像権の消滅していると思われるものを使用しますが、
もし著作者ご本人で、掲載に異議のある方は、
私のサイトhttp://www31.ocn.ne.jp/~tokyusha/ から
ご連絡ください。
画像削除等、誠意をもって対応させていただきます。

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コメント


こんばんは

物語も楽しいですが、その後に続く解説も興味深いです。
絵の見方がまったくわからない私には、「なるほど〜」と思えます。

毎週UPされているのですね。
次回も楽しみにしています。
Posted by:座無  at 2008年04月28日(月) 19:33

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