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「佐伯警部補の肖像」その2[2008年05月06日(火) ]



絵画・写真で綴る昭和叙事詩(第四話)

こんにちは。それでは、第四話
「佐伯警部補の肖像」その2/3を始めます。
※初めての方は、その1からお読みください。


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「6日ぶりだよお、夕飯一緒。」
妻、泰子の声に、不平らしさはまるで無く、夕飯を一緒にできるうれしさだけが、佐伯には伝わった。
真向かいに膝を崩して座る泰子は、大きなお腹を腿の上に抱えている。
佐伯は、おかわりの茶碗を差し出しながら、泰子に言った。
「今度のヤマが片付いたら、お父さんの墓参り行こう。お盆に行けなかったからな。」
泰子は、子供のように座布団の上で跳ね、はしゃいで応えた。
「そしたらI百貨店に寄って、もう少し、おしめ買っておこうかな。何だか、何百枚あっても足りない気がするのよ。」
「何百枚は大げさだろう。」そして佐伯は続けた。
「生んだらお腹ぺしゃんこになるなあ、お前のワンピースでも買ったらいいなあ。」
「あら、やさしいんだ。でも、あんたも少しおしやれしたらいいよお。私あんたの、姿形(すがたかたち)にも惚れたんだから」と言ってのける妻に佐伯は渋い顔をして見せた。しかし、溢れ出るうれしさは押さえ切れなく、すぐ笑い顔になった。
「同じく、、」と言いそびれて佐伯は、沢庵をほおばり茶碗のご飯を、かき込んだ。
誰が、痩せて神経質そうな自分の姿を、褒める者がいるだろう。お世辞と分かっても、妻の気持ちは大切にしたい。俺たちはそんな気持ちを持ち寄って、そこから長い二人旅に出たのだ。
そして、来月には仲間が加わる。
待ちかねた天からの贈り物だ。そして妻は、その新しい仲間も、きっと褒めるのだろう。笑ったと言って褒め、立ち上がったと言っては褒めるのだ。
夕飯になると、いつものように熱心に泰子は語りかけたが、ことの他今夜は勢い込んで話した。まるで、もう時間が残っていないかのように、佐伯に語りかける。
「名前のことだけどね、あんたの幸って字を貰って、幸雄はどうかって。署長さんの奥さんが言ってたけど、どお。」
「何だかずいぶん平凡だなあ」と佐伯は、みそ汁に手を伸ばしながら言った。
「私もね、遠慮なく奥さんにそう言ったのよ。平凡だって。そしたらね、あんたの仕事って、平凡な日常を守ることだって。人がキチンと育てば、平凡な名前も平凡で無くなるって。」
佐伯は笑いながら言った。
「そりゃあ、そうだが、、生まれて来る本人が気にいるかどうか、、それに男って決まった訳でもないしなあ。」
すると泰子はお茶を飲み込み、口をとがらせながら言った。
「男の子だよお、お腹けるものお」
「男の子は、けるかあ、あははは、」
そこへ電話器の音が、けたたましく鳴った。柱の時計を見ると夜9時をまわっていた。奥の暗い部屋に行き、佐伯が受話器を取ると、署長の声がとびこんできた。
安藤の居所が掴めたので、すぐ現場に来てくれということであった。
「出かけるわ、飯の途中ですまんなあ」
すでに、着替えの洋服を抱え、側に立っていた泰子に、佐伯は言った。
泰子は、微笑みをつくりながら、佐伯の着替えの手伝いをした。
そして、佐伯がネクタイを結び終えるのを待って、背広の肩にあった糸くずをつまみ取り、笑い顔をみせた。
「あなた、気を付けて、行ってらっしゃい。」
さきほどまでの、はしゃぎぶりをすっかり押さえ、気丈な風に言って見せる泰子を後に、佐伯は玄関を出た。

H川の土手には、既に十数台のパトカーが連なり、赤色灯が紅い花びらのように、夜の川面に舞っていた。
佐伯は車を降り、署長がいると思われる、警察官の一団に向って走った。
佐伯の姿を見ると、署長が挨拶もそこそこに言った。
「安藤の潜伏先を確定した。周囲の小さな道まで、非常線を張っちょるが、とにかく、急いで子供の安全を確保する。あそこの、灯りの点いていない平屋の家だ。」と署長は、土手下の畑の間にある、一軒の小さな平屋を指差した。
佐伯は、立っている土手の上から全体を見渡した。暗がりの中でも探照灯(サーチライト)の配置した場所は見てとれ、まわりにはその家を囲むように機動隊が配置されている。この様子から、数時間で突入の指揮が下るのではないかと佐伯は考えた。
そして夜の闇の中で、黒い雲のように横たわる平屋を見ながら、署長に言った。
「突入の前に、一度私が安藤を説得してみます。1時間ほど、ねばってみますので、突入はその後にしていただけませんか?」
署長はうなずき、佐伯に空家の間取り図を渡して言った。
「機動隊を一緒に行かせよう。」と署長が言うと、
「いえ、安藤ひとりとの話し合いですから、私一人が良いと思います。複数だと刺激することになりますから。何かあればすぐ分かる位置に、警察官を配置してください。」
そう言って佐伯は、図面を持ってパトカーの窓に寄り、敷地の様子と家の間取りを記憶した。
それから、数名の警察官と手短に打ち合わせを終えると、土手のコンクリート階段を下り、ひとり畑の中の暗い家に向って、歩いた。

                     (つづく)



  文章は、私の夢想です。掲載画とは、直接の関係はありません。
 この作品のサイズは約32.8×41cm(F6号)板に油彩
 作品表に作者サインと年期(1929年)があります。
 次回(第四話「佐伯警部補の肖像」その3/3)は
  5月10日(土)(時刻未定)掲載予定です。
  桃丘舍http://www31.ocn.ne.jp/~tokyusha/

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コメント



座無様。
読んでいただいてありがとうございます。
ご指摘のように、その日暮らしの小説です。
ショートストーリーのつもりが、
実は、まだ完結しません。
完結しないばかりではなく、いきなり場違いなキャラクターが出てきて
花月のコントに近づけようとしたりもします。
まったく、私の頭は、こまりものです。
ぜひ、ご批判を!
Posted by:雅彦  at 2008年05月06日(火) 22:49


静様
始めまして。
ほんとに拙い文章で、恥ずかしいのです。
が、書いたものをどこかで読んで貰わないと、出て来た登場人物が、紙(今の場合はPC)の中で朽ちるようで、さみしいです。
でもって、こちらのサイトを利用させて貰ってます。
ぜひ、ご批判を!
Posted by:雅彦  at 2008年05月06日(火) 22:41

また来ました〜

1日早いUPでしたね。
次が最終章ですか? 
また来ます(^^)。
Posted by:座無  at 2008年05月06日(火) 21:32

はじめまして。
前回の4話の始めから読ませて頂きましたが、面白いです。続きが楽しみです。
Posted by:  at 2008年05月06日(火) 20:36

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