中距離パートナーRのこと、趣味の手織り、本棚からは読書日記…日々つれづれを、のんびりゆったり綴ります。
(3/19「座無の創作ノート」更新しました)

プロフィール
『ラブ・レター』(浅田次郎著) [2008年04月20日(日) ]
 直木賞受賞作で映画にもなった「鉄道員(ぽっぽや)」(集英社刊)に登載されている短編「ラブ・レター」

 泣ける作品としては、こちらを推薦しますヨ
 
 浅田次郎というひとは、作品中にスピリチュアルなものを盛り込んで、シビアな現実をときにファンタジックに仕上げてくれます。
「鉄道員」では娘、「角筈にて」では父親、「うらぼんえ」では祖父…。いずれもこの世の人ではありません。
 すべての作品に、家族への愛と故郷への郷愁が満ち満ちているのは、おそらく作者本人の心の中に深く根ざしたものがあるからだと思います。

 『ラブ・レター』には、この世のものではない人は登場しません。そのかわり、ひとりの薄倖な女の愛と哀しみが、恋文の中に昇華されています。

 高校生だった息子が、授業中にこっそり読んでボロボロ泣いたので、先生から「どうしたんや?」と、いぶかしがられたとか…。
゜(p´ロ`q)゜。


≪あらすじ≫

 高野吾郎(40歳前)。裏ビデオ店長、歌舞伎町暮らし20年余。世間の裏道で飯を食っているから、警察(サツ)やヤクザともおなじみ。

 ある日、警察(サツ)のダンナから「女房が死んだから、引き取りに行け」と言われて、ポカーン((°Д°)ハァ? 何のこっちゃ??

 "…そういや、戸籍売ったよなー。世話になってる組の手配で。でもオレ、相手の女、知らねえし…。会ったこともない女のホトケさん引き取りに行くのかよー。マイッタネ…
(;´Д`)"

 組の親分に諭され、弟分のサトシを連れて、吾郎は”女房"を引き取りに出かけます。名前は白蘭(パイラン)。中国から出稼ぎにきた女性労働者でした。

「…結婚ありがとうございました、謝々。…(略)…ここはみんなやさしいです。組の人もお客さんもみんなやさしいです…みんなやさしいけど、吾郎さんがいちばんやさしいです。私と結婚してくれたから」

 道すがら、吾郎はサトシから白蘭の様子を聞かされ、すこしずつ心の中にその面影が芽生えていきます。 会ったこともない女が、まるで自分の女房であるかのように思えてきます。
 手順どおりに遺体を引き取るだけ、そう思っていた吾郎の心が微妙に変化し、同行したサトシも戸惑うばかりになっていきます。

 「ヤベエよ、吾郎さん。いったいどうしちゃったんだよ」
 「だって簡単すぎるじゃねえか…(略)…人が死んだってのに」
 


 病院の安置室で、吾郎は白蘭と初の体面をしました。その美しい顔を抱きしめて彼は慟哭します。
 帰りの車中、遺品の中に、吾郎は白蘭の最後の恋文を見つけました。最後の力を振り絞って書いたらしい、細く乱れた文字で埋められています。

 「…(略)…写真も持ってます。…毎日見てるうちに吾郎さんのこと大好きになりました。好きになると、仕事つらくなります。仕事の前、いつもごめんなさいと言います。しかたないけど、ごめんなさいです。
 …(略)…やさしい吾郎さんの写真見ると涙が出ます。悲しいのつらいのではなく、ありがとうで涙出ます。
 …(略)…心から愛してます世界中の誰よりも。
 吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん吾郎さん。
 再見。さよなら」


 これは、日本文学史上、もっとも切ない恋文だと私は思います。



Posted at 14:31 | 座無の本棚 | この記事のURL
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『安穏河原』(乙川優三郎著) [2008年04月14日(月) ]
 「座無の本棚」というカテゴリを作りました。

 私がつれづれなるままに買った文庫本から、お気に入りの作家や作品を適当にピックアップして、単に紹介するコーナーです

 書評でもレビューでも、読書感想文でもない。
 あらすじを書いたり、ちょこっとコメントを入れたりします。それだけ…。
 (いつまで続くかわかりません)

 本日の作品は…。

 乙川優三郎「生きる」(文春文庫)から、『安穏河原』
 
 若いころは「時代小説」と聞いただけで、「古い」「つまらない」「むずかしい」と、食わず嫌いでした。
 ある日、文学の師から、「藤沢周平を読みなさい。だまされたと思って」と言われ、義理で一冊買い求めて読みました。それから病みつきになりました。
 藤沢作品は、一部の長編を除いて、ほとんど読んでいると思います。藤沢作品を読み尽くして、次に食指を伸ばそうとして、ハタと立ち止まりました。

 池波正太郎? 司馬遼太郎? 柴田錬三郎? 吉川英治?

 でもなぁ…

 分厚いのよ 長いし…。

 短編がいーんだ。
 1冊に5本くらい載ってて、1本読んだ頃にちょうど眠くなるような…

 そこで巡り合ったのが、乙川優三郎でした。

 
 ≪あらすじ≫ 

 伊沢織之助(25歳)は礼儀も教養も学問も武芸もない、木戸番あがりを父に持つ下級武士。

 羽生素平(42歳)は郡奉行から浪人、さらに転落して娘を身売りし、自身も肉体労働で口を養う武士。

 素平に依頼されて、織之助は、女郎に身を落とした双枝に時々会っています。娘の身体を休ませたい親心を理解しながら、一方では素平の世渡り下手、頼りなさを腹立たしく思っています。

 「世の中は身分じゃねえ。意地汚なく儲ける奴が生き残るんだ」 
 武士とは名ばかりで、恥も外聞も品格もかなぐり捨てて生きてきた織之助の実感です。

 片や素平は…。
 「どんなに落ちぶれようとも、卑しい真似をしない限り、その人の中身まで笑えるものではない。だから決して卑しい真似をしてはならない」

 ちゃんちゃらおかしくって! と織之助は思うのです。
 …んなこと言ってる本人が、娘を売り飛ばしてるじゃねえかよー

 何度か女郎屋へ通ううち、織之助は、双枝の痛々しいほど毅然とした様子に心を惹かれていきます。苦界に身を沈めても、なおその心に哀しいほどゆるぎないものを持っている。

 一年の後。
 大川の氾濫で、女郎屋は流され、双枝は行方不明になります。
 織之助もまた、蓄えた金と重い刀を捨てて命からがら逃げ伸びました。
 そして、素平は…。
 自らの命と引き換えに30両の金を得て、織之助に託すのです。

 「嵐の中で命を守るために金を捨てたわが身に引き比べ、素平の決断は無謀としか言えなかったが、結果は望みどおりになった。娘を救うためとはいえ、その裏には生きていくことへの諦めがあったに違いないと思うが、あれが武士としての最後の誇りではなかったかという気もしている。」

 素平から託された金を、双枝に渡さねばならない。父の最期を伝えねばならない。織之助は懸命に双枝をさがします。
 しかし、行方は要として知れません。

 やがて月日は流れ…。織之助は、武士を返上して古着の仲買を始めました。
 そして、彼は、ある奇跡を見出すのです。


 文庫あとがきの解説で、文芸評論家の縄田一男氏はこう綴っています。

「…私たち読者が感じるのは、紛れもない、この青年が感じる以上の衝撃に違いあるまい。そして、次の瞬間、おそらく涙で活字を追うことが不可能となるであろう―」










Posted at 21:21 | 座無の本棚 | この記事のURL
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